2010年02月27日

海辺の自然再生に向けて





海辺の自然再生に向けて

手引き・ガイドラインに見る多様な目標設定

横浜海の森つくりフォーラム開催
http://www.nilim.go.jp



海の森つくりフォーラム(12月8日:横浜市立大学)
開発・利用の多様性からみた環境保全の目的意識
分野藻場・干潟・浅場保全に取り組む際の姿勢
水産・持続的な水産業の発展

・漁場管理・保全⇒ (藻場保全・再生) ・多面的機能の発現海運・港湾・物流拠点としての航路維持・港湾開発のための浚渫土砂の有効利用⇒ (干潟・浅場造成)

・港湾環境の維持のための環境整備事業⇒ (ゴミ油回収、護岸を利用した藻場造成)製造・産業・リサイクル材の活用技術(底泥の固化体をアマモ基盤として利用)の開発エネルギー・エネルギーの安定供給のための発電所建設と、その環境影響の回避・低減⇒ (藻場造成、影響評価)

自然環境・沿岸域における生物多様性の確保

・自然環境の保全⇒ (総量規制、水質モニタリング、国立公園・保護区の管理)

パート3:環境の調和に向けての行動計画で提示されたキーワード

• 様々な方向性があるので、合意形成の場が必要なのでは?

• 失われたものは、勾配の緩やかな浅い海底←その回復をゆっくりでもしていくべき(自然現象としての陸化を参考にしながら)

• 開発にかけたお金と同じ規模の再生のための予算が必要であるということを認識すべきである。住んでいる方々・消費者に、「自分たちにも利益のあること」と理解していただくことが必要である。

• 東京湾は大きい。区切ったところからのスタートを考えてはどうだろうか(なにを用いて再生するのかという視点も入れて)。

• 沿岸に立地する工場の緑地をビオトープとして活用する可能性を考えては如何だろうか。

• 「再生=むかしのとりもどし」であるならば、歴史に学ぶべき(も場と干潟の混在等)。その上で実現可能な目標を明確に定義すべきである。

• 価値(の選択)についての研究が必要

• 評価のレベル(遺伝子-個体群-・・・-ランドスケープ)に応じたマップが必要。評価の手法に関しては、まだまだ議論が必要である(EF/BC等)。

• 的確な当事者による協議が必要なのでは。



東京湾シンポジウム
第5回横浜海の森つくりフォーラム
  http://www.amamo.org
 様々な立場の海洋環境の研究者が集い、東京湾再生の方向性・考え方について披露し、議論するシンポジウムとして、「開発と環境保全の調和」について、その取り組み、考え方、行動計画について話題提供、パネル討論が行われました。

議論の一端
http://www.meic.go.jp

政策・法令
企画展「第3回海辺の自然再生に向けたパネル展」について

事務局
国土交通省国土技術政策総合研究所沿岸海洋研究部海洋環境研究室
http://www.nilim.go.jp
(国総研)、
http:/www.meic.go.jp
(港湾環境情報)

金沢八景-東京湾アマモ場再生会議(共催)
http://www.amamo.org

土木学会海洋開発委員会順応的管理研究小委員会(共催)
URL http://www.jsce.or.jp
(土木学会)、
http://www.jsce.or.jp/committee/ocean
(土木学会海洋開発委員会) 環境調和型研究会(協力)

目標設定

場の理解

自然再生の定義= 復元力のある生態系

モニタリング・モデル化= 場の変動特性・ネットワーク

実証実験・研究・開発= 再生メニューの開拓  + 効果の評価

システム化
制度や仕組み= 包括的計画・順応的管理  + 市民参加・協働

手法開発
自然再生に向けた4つの取り組み




■ 第1回・第2回の取り組み
 パネルのフォーマット情報の種類報告書は、
http://www.meic.go.jp


■ 冊子情報
編集国土交通省港湾局 発行独立行政法人国立印刷局 規格A5判/130ページ/1,260円
http://www.mlit.go.jp/kowan/ecoport/050721.html
 平成6年の「環境と共生する港湾-エコポート」策定から10年・・・我が国の港湾が持続可能な発展を遂げていくためには、
多様化する環境問題に適切に対応していくとともに、過去に劣化・喪失してきた自然環境を少しでも取り戻し、港湾のあらゆる機能に環境配慮を取り込んでいくことが不可欠であることを背景として、港湾の環境の保全・再生・創出についても、港湾行政の重要な使命として積極的に取り組んでいく必要があることが指摘されている。

 本書は、平成17年3月に交通政策審議会より答申された「今後の港湾環境政策の基本的な方向」の本文に、関連データや写真等が盛り込まれ、交通政策審議会港湾
分科会環境部会において実施した関係者ヒアリングの資
料等も参考資料として取りまとめられている。

■ 目次(抄録)
第1章港湾環境政策の見直しの必要性

第2章基本理念
(1)自然環境に優しく美しいみなとへ
(2)都市と地球の環境に貢献するみなとへ
(3)市民とともに歩むみなとへ

第3章今後の港湾環境政策の基本的な方向

第4章実現に向けた具体的施策
(施策1)良好な環境の積極的な保全・再生・創出
(施策2)多様化する環境問題への対応
(施策3)環境施策の実施手法の見直し・充実
(情報取りまとめ国総研・古川恵太)
目標:

• 5事例(海洋・港湾・水産・海岸・環境)
• 3グループ(研究会・土木学会・プロジェクト)
• 9事例(湿地再生・自然再生・水産振興・影響評価・設計施工・調査)
• 4計画(全国・瀬戸内・三番瀬・横須賀港)

研究者の取り組み







■研究者の取り組みについての対話
:「環境影響評価法や自然再生推進法、海洋基本法等が成立していく中で、評価の手法とかモデル開発から環境政策、あるいは生態学的な素過程について、幅広の論議が必要ですね。」

:「例えば、今年制定された海洋基本法において示されている『海洋の総合的管理』がこれからの大きな指標だと思うんです。それを実現するためには、事前、事後の順応的管理すなわち、効果と環境影響の2つのフェーズにおけるフィードバックが必要だと思います。これは、開発側と環境の保全側という2つの軸が合わさってくることを意味しているんですね。
 しかし、藻場とか干潟・浅場の保全についてだけを見ても、省庁のスタンスによって取り組む姿勢がそれぞれ違う。果たして包括的な目標なんて設定が可能なのでしょうか。」

:「例えば、『最適な生態系』という考え方は、包括的な目標にもなりえる可能性があるのではないでしょうか。そうした生態系の機能を評価する指標として、生態系サービスや、エコロジカル・フットプリント等が提言され議論され始めています。」

:「そうした考えには、循環型社会の実現や、人間への利益など、自然科学以外の要素が含まれていますね。すなわち、海の健康診断といえども、海だけ考えていてはいけない。アマモ場生態系の保全といえども、アマモ場に限定された見方ではなく、湾全体を見た物質循環も含めた形で考える必要があるということですか。」

:「そうですね、開発・利用という人の側の論理も、保全・再生といった自然界の論理も両方考え、生態系についてしっかり科学に基づいたやり方で評価していかなければならないし、技術的にそれができる時代になりつつあるということだと思います。」

:「しかし、順応的管理だとか、それを実現するための技術や、再生するための技術等については、技術や手法の話が先行してしまうと、その技術を適用するための場所を探そうみたいな順序で議論が行われる危険がありますので、注意が必要だと思います。」




海洋政策の基本理念
① 海洋環境の保全
② 海洋の利用,安全の確保
③ 持続可能は開発と利用
④ 科学的知見の充実
⑤ 海洋産業の健全な発展
⑥ 海洋の総合的管理

底質浄化

土木学会海洋開発シンポジウム特別セッション
「自然共生型事業-順応的管理の実現に向けて-」
■ 海洋開発委員会の取り組み
自然再生・環境整備事業において、適用技術を開発するだけで
なく、その施工・管理も含めて包括的に取り組む必要があります。
その際に、モニタリング結果をフィードバックする仕組みとして
「順応的管理:アダプティブマネージメント」が注目されている状況にあります。


■ 今までの経緯

① 自然再生の進め方(包括的計画)について、十分に議論が深められる仕組み、

② 議論の経過・データの公開、

③ 総合的判断を行うための専門家の活躍する場・組織の創出、

④ 専門家の議論を事業に反映させていくシステムやルールの重要性

が指摘されました。





 「順応的管理とは、予測不能な変動や遷移を含む地形・生態環境の中で、海洋開発における海洋環境・水産資源の保全・再生ために多くの関係者と協働し、目的と方法を合理的に柔軟に統合して実行するシステムの一部であり、長期的視点を持った目標設定技術、事業評価技術、環境改善技術について、先進事例を参考にしながらの技術開発が必要だ」



 海洋開発における順応的管理とは、海洋環境の改善・再生を主目的とする事業のみならず、環境改善・再生を副次的に取り上げる事業も含め、環境の保全・再生と持続可能な開発との調和を目的として多くの関係者とともに、柔軟に目標の達成に向けて事業を実行する手段である。

順応的管理の理念を明確にするとともに、目標設定、事業評価、環境改善等の技術を、不確定な変動や遷移を含む地形・生態環境の中で海洋環境・水産資源の保全・再生を目指す場面において活用し、積極的に適用することが望ましい。

・目標設定においては、期間や対象の明確化が不可欠である。例えば、特定の対象生物を選定することや、その生物を取り巻く環境との関わりに着目すること等が有効である。

・事業評価においては、モニタリングと評価を分けずに議論をすることが大切であり、モニタリングの成果を事業の中間評価および発展の方向付けを考えるような場面において活用し、積極的に適用することが望ましい。

・環境改善手法においては、単にある技術を単独で適用するだけでなく、総合的に活用することへの配慮が必要である。特に、目標設定のためのコミュニケーションプロセス、事業評価のためのモニタリングとモデル化の統合、生態系の変動や遷移を考慮した生物生息場の保全・造成・維持管理に関する環境改善技術等の研究テーマへの取り組みが期待される。

今後、様々な順応的管理の主体、場所、内容をケーススタディとして蓄積し、今後の事業の参考にするとともに、順応的管理の制度化を目指し、技術の体系化、その管理・解析・責任体制のあり方等を研究テーマとして取り組んでいく必要がある。

順応的管理のあり方

■ 発表事例(30回、31回の発表を中心に)

徳山下松港大島地区干潟整備の事例においては、干潟整備
マニュアルを策定し、関係者との目標設定を確認しながらの順
応的な取り組みがなされています。その中で、

☆ 「瀬戸内海環境修復計画」による干潟造成目標の明確化=アクションプランとセットになった目標設定

☆国土交通省、漁業関係者、市民の協働事業としての実施

☆共通する概念的な目標の抽出と文章化

☆創出された場の健康診断としてのモニタリングの位置づけ等の重要性が指摘されました。

 米国の順応的管理の実践事業(ポプラー島環境修復、ソノマ・ベイランズ湿地環境修復)におけ
る目標設定・実施体制の構築の特徴が紹介されました。

-ソノマ・ベイランズ湿地実証事業について100年前の干拓地を浚渫土砂により再生し、
20年以内の再生を目標とし、12項目の目標達成基準(1、5、10、20年を目標として)が設
定された。

-ポプラー島環境再生について
 20年前の侵食、浚渫土砂の有効利用による湿地の回復が目的とされた。
パイロット工区による実証試験実施とともに、順応的管理チームという専門チームによる計
測可能な対象項目と許容範囲による進捗評価がなされた。





環境改善技術29)

大阪湾再生行動計画を軸とする大阪湾における環境改善技術の適用例においては、以下の点の重要性が指摘されました。

•市民レベルのコミュニケーションの仕掛け(発掘と発展)

•技術開発の側面として環境DB、GIS等双方向インターフェイスを持ったコミュニケーションツール




順応的管理のケーススタディ2)
 絶滅危惧種であるアサザを含む霞ヶ浦の湖岸植生帯の減退を改善するため、その復元目標や対策箇所、手
法等が検討され、緊急対策が実施されました。
 緊急対策は、霞ヶ浦本来の豊かな水生植物相を有する水辺植生を保全・再生することを目標として、既存の
湖岸植生帯の保全と霞ヶ浦本来の湖岸植生帯の再生を目的に、3つの仮説に基づいて実施されています。

 この事例は、順応的管理による管理手法のレビューからその設定・改善のフィードバックがなされた先駆事例であり、
順応的管理のシステムの有効性が発揮されていると評価できます。

■ 順応的管理の取り組み・考え方
 我が国における総合的沿岸域管理への取り組み21)順応的管理(総合沿岸域管理)の背景となる検討が進
んできており、その中でも「東京湾再生のための行動計画」は一つの示唆を与えてくれています。長期的なモニタ
リングの制度はまだないものの、事業の中での工夫は行っている段階であることが示されました。

生態系の変動を考慮した順応的管理22)
 物質収支からみた生態系の変動についての整理から、
1)人工的な動的生態系でメンテナンスフリーは考えられないこと、
2)長期的なモニタリングが不可欠であることなどが有効であることが示されました。

干潟・藻場の再生と順応的管理23)
 全国・瀬戸内海・広島湾など様々なスケールの干潟・藻場の再生に向けて、広域と局所課題の統合、渚の基本図
のような情報整理、生物ネットワークの確保、多段・多様の活用、水産技術の活用などが重要であることが指摘さ
れました。

海岸事業における順応的管理24)
 防護のための順応的管理から、環境保全のための順応的管理への移行期にあり、順応的管理にはレベル(段階)があり、それぞれ、
① 施設の配置や構造に工夫、
②地域住民の意見の聴取、モニタリングの反映、
③ 地域住民の参画、施設の改良の段階であること等が紹介されました。

緊急対策検討上の仮説設定
目的 仮説 対策 検証結果

既存の湖岸植生帯の保全

A:波浪の低減によって、既存の湖岸植生帯を保全することができる
波浪の低減(粗朶消波工、石積み消波工、群杭工など)
粗朶消波工により波浪が低減され、既存植生生育場の地形が維持された結
果、アサザを含めた湖岸植生帯の保全に成功した。

ただし、一部の粗朶消波工の損傷、粗朶の流失がみられ、その
結果、植生の侵食が見られた

B:消波された裸地的環境を持つ緩勾配の地形整備によって、湖岸の土壌シードバンクからのアサザ実
生の発芽、定着が促進され、湖岸植生帯を再生できる波浪の低減(粗朶消波工、板柵盛土工)
生育場整備(捨て砂工など)

消波工、捨て砂工等により緩勾配の地形が形成・維持され、土壌シードバン
クからのアサザ実生の発芽が促進された。また、定着においても効果が見
られた。一方で、高茎植物が優占化の傾向にあり、実生の定着に影響を及ぼ
している可能性がある。

霞ヶ浦本来の湖岸植生帯の再生

C:消波した上、多様な生育環境を持つ養浜等の生育場を整備し、さらに霞ヶ浦固有の植物種を導入することによって、霞ヶ浦本来の湖岸植生帯を再生できる波浪の低減(粗朶消波工、島堤、人工リーフなど)生育場の整備及び植生の復元(養浜、ワンド、クリーク、シードバンク、植栽、播種など)消波工、養浜等により多様な生育場が形成・維持され、さらにシードバンク含有土壌の敷設、植栽等により、短時間で多様な水生植物を含む霞ヶ浦固有の湖岸植生帯が再生できた。





環境調和型順応的管理

今までの議論の経過:
 悪化していく環境の保全とさらなる開発の要求を調和させることを目指して、そのコンフリクト要因を探りました。そのコンフリクトの多くは、利用と管理の矛盾(立場の違いによる利用目的の相違、技術的解決手法の不備)から生じているように見えました。これらは、立場毎に目標や目的が異なることが、原因であると思われます。
 そこで、研究会で立場の異なる主体が考える目標や手段として使っている技術についての情報交換を進めた結果、技術については、共通の言葉、論理があるようでありました。
 それでは、そうした技術をベースに、多くの主体の目標や目的を包含する大目標が立てられれば、ブレークスルーになるのではないかという点に行き着き、「開発と環境保全の調和」を包含する考え方の提示を目指してアウトリーチ活動をすることとしました。

 目標に即した環境調和型事業を実施するための行動規範として、環境調和型順応的管理方式を提案します。ここで、事業の流れに沿って考えると、事前順応的管理と、設計施工時のEIA,事業効果による見直しのループ、さらには完成後の事後順応的
管理などが定義できます環境調和型事業を支える枠組みと、技術の事例

① 目標設定技術(指標種の選定を含む)
   ⇒ 電力事業のアセス体系(電中研)

② ゾ-ニング技術(地域研究)
   ⇒ ビオトープネットワーク(海生研)

③ モデリング技術
   ⇒ 海洋環境モデル化技術(国総研)
   ⇒ 藻場影響予測技術(電中研)

④ 再生技術
   ⇒ アマモ場・海中林造成技術(電中研)

⑤ モニタリング
   ⇒ 調査技術(JANUS)

⑥ 評価モデル
   ⇒ 生物環境の評価指標(水工研)

⑦ 価値基準
 環境調和型技術の枠組み例(生態系工学研究会) ⇒ 沿岸生態系の健康診断(環境研)
両者に配慮し具体化していく技術
環境保全の目標を総合化していく技術
開発の目標を総合化していく技術




■ 各参加者の研究事例
電中研における藻場研究
発電所を建設するときには,藻場が埋立てられたり,温排水が藻場に届くこと
があります。電中研では,埋め立てられた藻場に替わって代替藻場を造成す
る技術や温排水による水温上昇が藻場に与える影響を予測する技術につい
て研究してきました。

アマモ場造成技術
良質な種を選別し苗を育てる技術を開発し,生育に適した場所を選定し,アマモの苗を移植する手法により,一年後
には天然のアマモ場と同様のアマモ場が形成

海中林造成技術
 遊走子が届く砂地海底に波浪に耐えられる構造と遊走子がつきやすい構造を併せ持つ基盤を設置することで海中林造成を実証

藻場影響予測技術
 水温や濁りが変わったときに海藻の光合成生産がどれくらい変わるかモデルを使って解析する技術を開発

水工研における環境の評価手法に関する研究
 汽水域生態系の健康診断を目指して、生物と環境との相互作用をまとめて生
態系の動きとしてとらえる「生態系機能」の評価に関する研究を行ってきました。
系内の物質循環スペクトルを提案し、健康度の評価スキームを確立しました。

国総研におけるモデル開発に関する研究
 東京湾を代表とする閉鎖的な内湾域は、構造的に汚濁が進行しやすいという特徴を持っているとともに、流れや環境問題は、様々な時間スケールと空間スケールの階層構造を持っています。そうした環境の構造の把握のために、モデル化という手法を用いて研究を行っています。







我が国の火力・原子力発電所のほとんどは海の近くに立地しています。海生研では、取水による取り込み影響や温排水が及ぼす魚介藻類への影響を中心として、関連する沿岸域の環境問題にも取り組んでいます。

今までの発表課題

「伊勢湾流域圏の自然共生型環境管理技術開発」自然共生に向けた研究プロジェクト
■ 適用先について
 流域圏を含む、内湾域全体に適用することを想定している。特に、政府・自治体の連携により行動計画を推進し、陸域・海域における対策、モニタリングを主な対象とし、環境教育や市民参加といった広範なメニューを対象としている計画もある。

■ この研究プロジェクトの目的
 流域における水の動態に伴う物質移動経路の保全および土地利用改変による環境劣化の修復に関する研究を基盤として、自然環境がもつ物質循環機能の最大限の活用によって、流域圏に展開する社会・経済的な人間活動が周辺環境に与える影響を可能な限り軽減するとともに、この機能を提供している生態系が持続的に維持されるような流域を形成していくための技術体系を開発することを目的とする。

■ 関連情報・参考文献
プロジェクト事務局

研究の内容
 生態系サービスの概念を導入し、流域圏における各種生態系サービスの評価、それを最大限に生かす修復技術の開発を行うと共に、これらの成果を利用して政策ツールとしての環境影響評価モデルを構築する。さらに、持続可能性については、生態系サービスの定量的評価と生息場保全度の組み合わせを用いることで定量評価を可能とし、その評価軸をもって社会活動レベルと環境保全を両立させるために必要なシナリオを提示する。

■ 主な論点・アイデア・考え方
 現在の経済活動を妨げることなく、河川や沿岸域の地形修復や河川水量、流砂量を変化させることにより、流域圏における生態系サービスを向上させる自然共生型流域圏構築の具体的手法についての提案を行う。
 社会・経済・財政制約下での人口動態、産業構造変化、都市・農漁村連携等を考慮した伊勢湾流域圏の社会像の提示と、それを可能にする社会施策シナリオ・修復技術・戦略的アセスメント手法を提示する。

◆予算名科学技術振興調整費

◆課題名伊勢湾流域圏の自然共生型環境管理技術開発
  http://www.errp.jp/index.html






■政策・法令についての対話
事前にパネル作成者を交えて行った議論を元に、対話風にアレンジして紹介します。
「海洋基本法」 目的、内容、重要性、および今後の課題について


■政策・法令に見る目標設定について
政策・法令には、我が国としての方向性を示す理念・考え方が反映されている。平成18年に制定さ
れた海洋基本法をはじめ、各種政策について、港湾・水産・海岸・環境の分野から例をとり、5つの政
策・法令を紹介します。

■今回収録された5つの政策・法令

:「『海洋基本法』は、よく知られている教育基本法などと対等な位置づけにあり、重要かつ、格が高い法律と言えると思います。また、この法の実行のためには、海洋基本計画を作る必要があり、沿岸域を包括的に扱うというところがポイントですね。」

:「でも、こうした政策・法令は、理念や考え方を示すものであり、具体的に何を目指しなさいということは書いていない場合が多いですね。例えばある調査について、『項目とか方法とか範囲とか期間とか、評価基準を明確にしなさい』とは書いてあるが、どう明確にするのかというのは書かれていない場合が多いように思えます。」

:「それが、政策・法令の書き方ですね。一方、『港湾行政のグリーン化』は、港湾法の改正を受けて、今後の港湾環境政策の基本的な方向についての答申をまとめた政策の冊子ですね。こちらには、より具体的に取り組むべき内容が記されており、環境配慮の標準化と順応的管理の適用が大きく強調されています。これはまさに開発と保全とを調和させていこうという考え方に基づくものだと思います。」

:「また、環境影響評価のフォローアップ調査の中から出てきた『藻場の復元に関する配慮事項』には、事業等により影響を受ける藻場の復元について、計画から始まって、モニタリングまで13項目の考え方が中心的に示されている。そのうちの配慮事項の9番目には、モニタリング・維持管理の計画において、順応的管理がよく検討されるようにという項目があります。」

:「多くの政策で、順応的管理の有効性が示されていますが、具体的
にどうしたらいいか、事業者がこれを利用するときに、迷うかもしれませ
んね。そうした場合に、多様な主体の参加による合意形成により解決す
るというという方法も考えられますが、根本の解決となっていないような
気がします。」

:「より具体的な取り組みを示した政策の冊子と言えば、水産庁等から
出された『提言国産アサリの復活に向けて』が挙げられます。これは、
1980年代をピークとして、その後減少し、今ではピーク時の半分もなく
なってしまったアサリの資源について、平成15~17年度の3年間、関
係者が積み重ねた議論の成果をまとめた冊子です。生息場所の減少や
資源管理等の問題点とともに、これからやっていくべきこととして、場の
造成・維持、あるいは種苗の移植と保護育成、局地的な大量斃死への
対応、資源の把握と漁獲の管理、普及・啓発、調査研究手法の高度化
といった具体的な6項目が提言されています。」

:「この中では、事前の順応的管理として、事業をするかしないかの判
断を含めた計画立案が示されていますが、もし事業をして目標ラインに
達しなかった場合に、そこで順応的管理をして、方向を変えることが本
当に可能なのか、特に民間が開発をしたときには、そういうことが果たし
てできるか疑問ですね。」

:「『自然共生型海岸つくりの進め方』には、実際に事業を進めながら
でもアダプティブ・マネジメント(順応的管理)ができるように、事業制度と
合わせた検討がなされています。」

:「すなわち、初めから変えるつもりで計画を立てていないと変えることができないということですね。これぐらいは変わってもいいだろうと事業者が思っていたら、その範囲は変わるけれども、ここは変えたくないなというところは、依然として変えてもらえないということですね。」
:「これから計画することであれば、自由度が高いので、政策・法令に示された考え方が適用できる可能性が高いと思います。」






「海洋基本法」
目的、内容、重要性、および今後の課題について

■ 海洋基本法の全体構成と要点

■ 海洋基本法は何がすごいか?
 平成19年4月27日に「海洋基本法」が公布され、同年7月20日より施行された。海洋に囲まれ、漁業や天然資源を始めとして海からの恩恵を多く受けてきた我が国において、これまで「海洋基本法」が存在しなかったことが不思議、とも言われるが、ともかくこれで我が国が海洋国家として指導的地位の確保を目指すための土台ができたことになる。

 ところでこの「海洋基本法」の制定はどのくらい重要なことなのであろうか。これを理解するには「基本法」がどのようなものであるかを知る必要がある。これまでに29の「基本法」が公布、施行されており、「教育基本法」、「少子化社会対策基本法」などは一般になじみの深いものである。
 このような「基本法」とは国政に重要なウエイトを占める分野について、国の制度、政策、対策に関する基本方針を示したものであり、一般の法律の上位に来る「親法」として、他の法律や行政を指導・誘導する役割を果たしている。すなわち、「海洋基本法」で明示された、基本理念や目的に則り、明示された施策を国が実施する責務を負うことになる。

■ 海洋基本法の重要ポイント
 格が高い
 海洋に関する施策を集中的かつ総合的に推進するため、「総合海洋政策本部」を置くことになった。この本部がどのように構成されるかが、この基本法がどれだけ重要であるかをアピールするポイントになる。
 幸いなことに、本部長には内閣総理大臣、副本部長には内閣官房長官と新設された「海洋政策担当大臣」が充てられることとなり、最高の布陣が敷かれたことになる。

 海洋基本計画の策定
 他の基本法の場合と同様に「基本計画」が策定されることとなる。これは「基本法」に則り、講ずべき具体的な施策を明示するものであり、その実施に要する経費の確保を政府に求めている点が重要である。
 お金が付かなければ何も始まらないという観点からは、これから策定される「海洋基本計画」の内容が予算の担保された具体的な施策を決める上で極めて重要である。

1.総則
目的  基本理念 責務

 基本理念を定め、国、地方、事業者、および国民の責務を明らかにし、基本計画を定め、総合海洋政策本部を設置して、海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、我が国の経済社会の健全な発展および国民生活の安定向上を図るとともに、海洋と人類の共生に貢献することを目的とする。
 海洋の開発及び利用と海洋環境の保全との調査。海洋の安全の確保。海洋に関する科学的知見の充実。海洋産業の健全な発展。海洋の総合的管理。海洋に関する国際的協調国の責務、地方公共団体の責務、事業者の責務、国民の責務の定義

2.海洋基本計画定める事項海洋基本計画に定める事項。実施に要する予算の確保

3.基本的政策
漁業振興、資源開発環境保全
安全の確保科学技術研究開発
沿岸域の総合的管理

4.総合海洋政策本部組織、事務内閣に海洋政策本部を置き、本部長に内閣総理大臣、副本部長に内閣官房長官および海洋政策担当大臣、本部員にその他の国務大臣を充てる。事務は内閣官房において処理する。
排他的経済水域開発海上輸送の確保
海洋調査の推進海洋産業の振興
離島の保全国際連携・協力国民の理解増進

■ 海洋基本計画の策定が重要!
 既述のように、海洋基本計画の策定が今後の最重要課題である。その
内容次第で施策が決まってくるため、各学会等からも基本計画に盛り込
むべき内容に関する提言が活発になされている。目玉の一つである「沿
岸域の総合的管理」に関する提言については右にまとめてある。その他
の主な提言を挙げると、「防災・環境モニタリングの充実」、「海洋科
学技術の研究開発の充実」、「海洋教育の充実」、「海洋管理体制の確
立」、「海洋開発のための基盤の確立」などがある。

■ 沿岸域の総合的管理
 海洋基本法では、これまで不十分であった、陸域から沿岸域までの一体的な管理を要求している。また、特に「海岸」
に焦点をあて、海岸の防護、海岸環境の整備・保全、海岸の適正な利用の確保を求めている。これを受けた海洋基本計画
においては、沿岸域の総合的管理を促進するためのリーディングプロジェクトとして、「東京湾総合管理機構(仮称)」
の設置と特別措置法の制定により、東京湾における持続可能な利用および健全な生態系の維持・強化を図ることを盛り込
むよう、提言がなされている。

■ 冊子情報
◆公布2007年4月27日、施行2007年7月20日(法律第三十三号)
◆構成4章、38条
  http://law.e-gov.go.jp/announce/H19HO033.html

「港湾行政のグリーン化」で示された環境配慮の標準化について
■ 適用先について
港湾開発に汎用的に適用することを想定している。
「東京湾再生のための行動計画(H15.3)」をはじめとする全国海の再生プロジェクトに適用されている。
■ 冊子情報
編集国土交通省港湾局
発行独立行政法人国立印刷局、2005年
規格A5判/130ページ/1,260円
  http://www.mlit.go.jp/kowan/ecoport/050721.html
 平成6年の「環境と共生する港湾-エコポート」策定から10年がたち、社会の変化に対応した港湾局の環境施策に対する取り組み方を示す冊子として発行された。
 本書がまとめられた背景は、我が国の港湾が持続可能な発展を遂げていくためには、多様化する環境問題に適切に対応していくとともに、過去に劣化・喪失してきた自然環境を少しでも取り戻し、港湾のあらゆる機能に環境配慮を取り込んでいくことが不可欠であるという認識である。

 そうした中で、港湾の環境の保全・再生・創出についても、港湾行政の重要な使命として積極的に取り組んでいく必要があることが指摘されている。
 本書は、平成17年3月に交通政策審議会より答申された「今後の港湾環境政策の基本的な方向」の本文に、関連データや写真等を盛り込み、同審議会取りまとめにおいて実施した関係者ヒアリングの資料等とともに、港湾の環境の保全・再生・創出についての取り組み方が分かりやすく取りまとめられている。
目的:港湾環境施策について、その基本理念とともに具体的な施策を掲載し、その実施において、計画・施工・管理等あらゆる段階での環境配慮の標準化が必要なこと、順応的管理手法の導入が有効であることを指摘する。
※平成6年10月策定

環境配慮の標準化
 港湾の施設は、技術上の基準に適合するように、建設・改良・維持されているが、現行の技術上の基準には、環境や景観への配慮について規定されていないという反省が示された。
 そうした反省に基づき、港湾の施設の設計、施工、維持・管理の各段階において標準的に環境配慮を行うことにより、経済性にも配慮しつつ質の高い港湾の施設を整備していくことが必要であるとされている。

順応的管理
 干潟・海浜・藻場等の自然環境の保全・再生・創出を図る事業においては、自然環境の不確実性や合意形成の重要性を考慮し、事業完了後の供用段階においてもモニタリングを継続的に実施し、その結果をフィードバックさせていく順応的管理が不可欠であるとしている。
 その実施に当たっては、施設の供用後のモニタリング、市民等の協働・参画などを視野に入れた、順応的管理手法を進めていく仕組みづくり等について検討していく必要性が指摘されている。






■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介
「提言国産アサリの復活に向けて」水産技術の展開について

■ 適用先について
 現在、第2期アサリ資源全国協議会として活動が継続され、水産基盤整備直轄調査(水産庁)など農林水産省が委託する試験研究や独立行政法人水産総合研究センターが実施する試験研究における新規課題の提案・立案の方向性を検討する際の指針として、本冊子が活用されています。

■ 冊子情報
編集・発行アサリ資源全国協議会提言検討委員会/水産庁/独立行政法人水産総合研究センター、2006年
規格A4判/31ページ
  http://www.jfa.maff.go.jp/panf/index.html
この冊子について
 1980年代前半まで、国内のアサリ生産量は毎年14万トン前後で推移し、沿岸漁業の中で重要な地位を占めておりました。しかしその後、沿岸域の開発による漁場の喪失、過剰漁獲、漁場の生産力低下など種々の要因により、アサリ生産量は減少の一途を辿り、近年は年間約3~4万トンに留まっています。このような急激な生産量の減少は、国内のアサリ資源が危機的状態にあることを示しています。
 このような状況のなか、平成14年3月に全国水産試験場長会から「アサリ研究に関する全国的な連絡会議の設置及び運営」の要望が出され、平成15年に水産総合研究センターや水産試験場等の専門家をメンバーとする「アサリ資源全国協議会」が設立されました。
 協議会ではその後平成17年度までの3年間、地域ブロック毎にアサリ漁業の現状について情報収集するとともに、過去になされた研究・事業の検証を進め、提言として本冊子を取りまとめました。

■ 目次(抄録)
・提言
・アサリ漁業振興のための基本認識(生産工程と技術展開)
・アサリ重要課題の整理表
・アサリ増殖のための水産技術の適用結果と今後の課題

(情報取りまとめ水産工学研究所齊藤肇)
目的:アサリ生産の現状と問題点として
(1)全国的な生産量の長期的減少、
(2)生息地の減少・漁場環境の悪化、
(3)不十分な資源管理、
(4)再生産機構の崩壊、を挙げるとともに、資源回復のための6 項目に亘る方策(場の造成・維持、種苗移植と保護育成、大量死亡対策、資源の把握と漁獲管理、普及・啓発、調査研究手法の高度化)を示しました。




■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介
「自然共生型海岸づくりの進め方」防護・環境・利用の調和について

■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介
防護、環境、利用のバランスを考慮した目標設定
 海岸保全区域は汀線をはさんだ非常に狭い範囲に設定されていることが多いため、防護・環境・利用の相互間でトレードオフの関係になってしまい、全てが満足される水準で整備することが不可能な場合も多い。このため、防護・環境・利用のバランスを考慮して、地域を中心とした関係者の合意形成を図りつつ、関係者の協力のもとで海岸づくりを進めていくことが求められる。

アダプティブ・マネージメント
 生態系の保全を試みる際には、生態系が複雑であり、かつ不確実性も大きいことから、当初想定した通りの結果が得られない場合も多い。このため、モニタリング等により整備の影響や効果を監視しつつ、不都合が生じた場合には見直しを行うアダプティブ・マネジメント(順応的な管理手法)を取り入れることが有効である。

自然共生型海岸づくりの手順
 自然共生型海岸づくりは、調査・計画段階から実施・維持管理段階に至るまで、地域住民や関係行政機関などとの合意形成や役割分担等による連携を図り、海岸保全の技術・経験を蓄積しつつ、望ましい海岸の姿に近づいていく循環的なプロセスである。

■ 適用先について
 海岸保全に汎用的に適用することを想定している。

■ 冊子情報
監修国土交通省河川局砂防部保全課海岸室 編著自然共生型海岸づくり研究会、2003年
規格A4判/73ページ/1,100円
  http://www.kaigan.or.jp
この冊子について
 平成11年に海岸法が改正され、防護に加えて環境と利用が目的に追加されました。また、平成12年に定められた海岸保全基本方針では、「美しく、安全で、いきいきした海岸」を次世代に継承していくことを基本的な理念としています。しかし、防護・環境・利用間のトレードオフの問題や、自然環境に配慮した海岸整備を進めていくための技術的知見が不足しているなど、今後解決しなければならない課題も少なくありません。
 本書は、このような状況を鑑み、生物の生育・生息環境等に配慮した海岸保全のあり方について検討した結果をまとめたものです。この中では、自然共生型海岸づくりの理念や基本方針(役割分担、情報公開、合意形成、アダプティブ・マネジメントなど)についてまとめた上で、海岸整備の具体的な手順に即した留意点を整理しています。
 さらに、生態系への着目方法とともに、特に注目種として選定される事例が多い4例について、基本的な事項と検討事項を例示しています。

「藻場の復元に関する配慮事項」における順応的管理
■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介
藻場の復元に関する配慮事項のフロー
 適切な代償措置としての藻場の復元を行うために、本配慮事項に示す取組みが必要です。藻場の復元に関する配慮事項のフローを示します。

モニタリングと維持管理
 本配慮事項では、モニタリング及び維持管理計画の中で、順応的管理について以下のように配慮を求めています。

【解説】
 藻場の復元の計画立案に際して、モニタリング結果に応じて適切な措置を検討・実施する順応的管理を計画に組み入れておく。

【考え方】
 藻場などの生態系は、人間活動を含めた極めて多様な要素とそれらの要素間の関係からなる複雑なシステムである。また、復元措置として用いる方法・技術には、その効果や影響について不確実性があり、予測によって問題が少ないと見積もられても、実際には予測外に大きな影響が生ずる可能性を否定できない。
 そのため、モニタリング結果に応じてより適切な対応を検討するという順応的管理が必要となる。

■ 冊子情報
編集・発行環境省総合環境政策局環境影響評価課環境影響審査室、2004年 規格A4判/100ページ
   http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=4841
 『藻場の復元に関する配慮事項』は、環境省の事業により平成14年から検討を行い、平成16年3月に取りまとめられました。
 本配慮事項は、藻場のうち、アマモ場及び奄美大島以南に分布する熱帯海草藻場を対象に、代償措置として「藻場の復元」を行う場合、どのような点に配慮すべきかを、「配慮事項」として示したもので、配慮事項として、目標設定の重要性や実施場所の選定、方法・技術の選定、モニタリング・維持管理などに係る留意事項を13項目を取りまとめています。
 本配慮事項にいう「藻場の復元」とは、「改変による攪乱を受ける以前に有していた藻場の無機的及び生物的な構造を、それに関連した藻場の機能とともに、攪乱以前と同じ状態にまで回復させること」です。藻場の環境保全の観点から損なわれる価値の代償を最大化するためには藻場の復元を目標とする必要があります。
 また、藻場の復元に当たっては、藻場の構造と機能の違いが重要です。 本パネルでは、『藻場の復元に関する配慮事項』における順応的管理について紹介します。

■ 適用先について
藻場: 海中に生育する大型海藻(Macroalgae)もしくは海草(海産種子植物、Seagrass)の群落と、それを基礎とする独特の生物群集や環境である「藻場(もば)」への適用が想定されています。


[配慮事項9]モニタリング・維持管理の計画
 藻場の復元に係るモニタリング及び維持管理の計画に当たっては、以下の事項が配慮されていること。
(1)モニタリング計画には、藻場の復元に係る評価年次及び中間年次において目標の達成状況が確認できるよう、調査
の項目、方法、範囲、期間、頻度および評価基準が具体的に示されていること。

(2)復元措置を行った藻場の維持管理の計画について、順応的管理が検討されていること。

「環境調査技術マニュアル 海洋生物調査編」 にみる実践
的な調査フロー

環境、調査23
■ガイドラインについての対話
 事前にパネル作成者を交えて行った議論を元に、対話風にアレンジして紹介します。

ガイドラインにみる目標設定

■ガイドラインにみる目標設定について
 ガイドラインには、政策・法令に示された方向性・考え方を実現するため、より具体的な指針・手法
が掲載されています。湿地再生に関する国際的なガイドラインも含み、港湾・水産・電力・海岸・調査の
分野から例をとり、9つのガイドラインを紹介します。

■今回収録された9つのガイドライン
:「もう少し具体化したガイドラインというレベルで記述されているものを海外の例から見てみます。『Wise Use of Wetlands』には、まさにタイトル通り、『Wise Use:賢い利用』という考え方が示されています。」

:「『Wise Use』が目指すのは、生態系から利益を享受することであり、人類の繁栄だとか貧困の軽減だとかまで含めた、『生態系サービス』と称される、非常に大きな考え方ですね。」

:「一方、開発側からのメッセージとして『Guidelines for WetlandsRestoration』には、開発行為をするときに、自然再生のことを考えながらやってください、そうすれば結果的に全体の利益になる、ラムサール条約のほうで出された考え方を、実務者に対してかみくだいたというようなところがあります。特に、『再生』についての定義や、包括的計画手法、順応的管理について丁寧に書かれています。」

:「このような考え方を日本流に書き換えたのが、次の2つの『海の自然再生ハンドブック』や、『環境配慮の標準化のための実践ハンドブック』ですね。」

:「そうです。前者には、自然再生をするときの事例、考え方といったも
のを紹介している総論編と、自然再生事業の具体について、計画、設計、
施工、その後のメンテナンス、あるいはモニタリングといったことまで言
及して干潟、藻場、サンゴ礁に関して記載されている干潟編、藻場編、
サンゴ礁編があります。後者は、それらの続編として、順応的管理の具
体的なやり方の説明に特化した解説書となっています。」

:「同様に、水産庁の『磯焼け対策ガイドライン』では、漁業者が中心と
なって、計画、対策、確認を、協議会などを開いて対策を推進する手法
が具体的に書かれています。一方、『アマモ類の自然再生ガイドライン』
については、市民参加型のアマモ再生をターゲットに編さんされたガイド
ラインです。非常に強調されている点として、組織づくり、目標の設定、
順応的管理という3つが紹介されています。」

:「取り組み方や関係者の関係作りが強調されているわけですね。
『発電所に係る環境影響評価の手引』は、より具体的な記載がされてい
るガイドラインやマニュアルという性格が強くなっているようですが。」

:「この手引は、発電所の環境影響について、環境影響評価法、発電
所のアセス省令といったものを根拠に、どういう参考項目、参考手法を
もってアセスの調査をしていくかといったことを具体に記していますね。
例えば、ある藻場に対してのアセスについて、その実施基準から始まっ
て、どういった調査をするか、その結果のまとめ方、影響の予測や評価
の考え方などが記されています。」

:「同じように、具体的な設計や計画についての手引書に近いものが
『ビーチ計画・設計マニュアル』であり、自然共生型海岸づくりの政策の
転換に合わせ、ビーチの設計、景観設計、維持管理だとか運営だとかと
いったことを主眼に書き込まれていますし、最後の『環境調査技術マ
ニュアル海洋生物調査編』においては、基本的な海洋調査のための手
順書のレベルで具体的にまとめられています。」

:「こういうガイドライン・マニュアルというのは非常にありがたいのです
が、同じような共通の調査ができる反面、マニュアルに沿った調査だけ
をやる、悪く言えば、枠にはまった調査がなされる恐れがありますから、
やはり目的に合った調査、場に合った調査がなされるようなフォローアッ
プが必要ですね。」

:「磯焼け対策ガイドラインでは、みんなで作ったフロー図によるシス
テマティックな磯焼け対策の実施について、各地で講習会が全国で行わ
れています。地域、地域で違う部分を説明・解説する丁寧な講習会等に
よるフォローアップは、とても大切だと思います。」



■ 目次(第1巻:抄録)
湿地の賢い利用とその生態系の特性を維持するための概念的なフレームワーク
・はじめに・湿地生態系の用語
・湿地の賢い利用に向けた概念設計
・湿地生態系の特性、変化に関する新たな定義
・湿地の賢い利用の新たな定義

生態系の特性とは、ある時点・場所において、生態系を構成する要素や過程、利益やサービスの総体である

生態系の特性の変化とは、人が引き起こす生態系を構成する要素や過程、利益やサービスに対する負の改変のことである

賢い利用(Wise Use)とは、持続可能な開発の実現において、生態系に配慮した実施手法により、その生態系としての特性を維持することである

■ 冊子情報
編集・発行Ramsar会議事務局、2007年  規格A4判/17冊組
http://www.ramsar.org/
 1999年の開催された第7回条約締結国会議(COP7)において、賢い利用(Wise Use)、国際的に重要な湿地の指定、国際連携の3つの重要なテーマについてのガイドライン作成が決定しました。
 賢い利用(Wise Use)の考え方は、1971年の会議において初出し、1987年に定義が与えられています。それに基づき、1990年、1993年に締結国らにより、ガイドラインおよび、追加ガイダンスの文章が作成されましたが、これらは一般的な記述にとどまり、十分に実務に生かせる段階のものではありませんでした。そこで、賢い利用(Wise Use)を実践するためのツールキットとしてのハンドブック群がラムサール会議事務局により発行されました。
 2000年に第1版、2004年に第2版、2007年に第3版が発行され、改訂毎に記載を充実させてきております。

適用先について(取り上げられているケーススタディ等)
 ラムサール会議(Convention)においては、湿地は非常に広い生態系や生き物の住み処を含みます。例えば、低潮時に6mを超えない水深帯に
ある植生帯、泥炭地、氾濫原、河川、湖沼、沿岸、塩性湿地、マングローブ林、藻場、サンゴ礁などに対して用いられています。また、人為的
に造成された排水処理のための池等も含みます。これらすべてに適用されることを想定してハンドブックは記述されています。

■ 主な論点・アイデア・考え方
目的:従来の「賢い利用(Wise Use)」の定義である「将来世代の需要や願望にも合致するよう
な、人類社会に利する湿地資源の持続的な利用(1987年当時)」を発展させ、新たな定義を具体
化し、賢い利用(Wise Use)の概念、サイトの指定と管理、国際連携の3つのテーマを詳細に記
述することを目的としています。

「湿地再生ガイドライン」に示された再生の考え方と戦略的取組の重要性
戦略的取り組みのための基本的考え方(Guiding Principles)として、以下の8点が指摘されています。

1.予防原則:問題が起こってから対処するのではなく、起こる前に回避することが大切である。
(Prevention is better than cure)

2.生態系(環境)の価値の再生は、社会経済的にも利するものである。
(Restoring ecological value will benefit socio-economic value)

3.社会的視点については、湿地再生のできるだけ初めの段階から考慮すべきである。
(Social aspects should be incorporated from the very beginning)

4.生態系(環境)的目標と経済的目標はつり合いを取って考えるべきである。
(Balancing ecological and economic objectives)

5.国際条約等は、補償的対策を必要とする。
(International conventions require compensation measures)

6.組織的な取り組みについての視点は、湿地再生にとって必要不可欠である。
(Institutional aspects are essential for wetland restoration)

7.順応的管理の適用が有効である。
(Adaptive management)

8.施行後の場の管理が必要である。
(Site management after completion)

■ 冊子情報
編集・発行国際航路会議事務局, 2003年 規格A4判/82ページ/45ユーロ
 http://www.pianc-aipcn.org/

 埋め立て・排水・水質汚染・水資源開発・港湾・航路の開発等により、世界の湿地が顕著なスピードで失われていっている状況にあります。
 生態系の中で機能を果たす湿地を再生するために、工学的技術ガイドラインが作成されました。工学者の目で、再生について定義し、実践のための手法とともに、その考え方が示されていることが特徴です。
 湿地再生のための、How-toではなく、鍵となる考え方(Guiding Principles)がまとめられていることが特徴です。

■ 適用先について(取り上げられているケーススタディ等)
河川・河口・沿岸部における湿地として、塩田・マングローブ林・干潟・サンゴ礁・藻場・季節的氾濫原・ヨシ原・河岸植生などを対象としています。ケーススタディでは、湿地の種類や、問題の種類とその解決手法、教訓などを明示した15事例(日本の3事例を含む)が取りまとめられています。
■ 主な論点・アイデア・考え方湿地の環境を改善し、造りだし、変化させることを”Restoration”と呼び、
以下のような活動を含む概念として用いる。
Creation(創出)人手によって湿地でない場所を湿地とすること

Enhancement(強化)存在する湿地に対し、利用者にとっての価値を創り出すこと

Reclamation(改変)人手により水域を平均水面以上の陸域に変えること

Regeneration(再生) かく乱後の自然の再成長

Rehabilitation(修復)損害を受け、制限されている生態系の機能を人手により修復すること

Remediation(改善)汚染された湿地における汚染物質の浄化





「海の自然再生ハンドブック」実績に基づく沿岸の自然再生技術
■ 適用先(紹介事例)について
港湾区域を中心に周辺の海岸の自然再生(干潟・藻場・サンゴ礁)に汎用的に適用することを想定しています。
干潟は港湾区域周辺の海域や埋立地、藻場は港湾・海岸構造物および隣接海域、サンゴ礁は構造物自体が対象と
なっています。
冊子情報
監修国土交通省港湾局 著者海の自然再生ワーキンググループ、2003年
規格各A4判、全4巻(箱入り分冊)16,000円(分売可)
http://www.gyosei.co.jp/home/books/book_detail.html?gc=3100475-01-000
 平成6年に国土交通省が打ち出したエコポート事業において、港湾や周辺海域で干潟、藻場、サンゴ礁の再生することがとりあげられ、平成10~11年に、各メニューに関するマニュアルが作成されました。
 さらに平成15年の自然再生推進法の施行で、自然再生の動きが活発になり、それらの実践に際してNPO等多様な主体との協働という新しい動きが出てきました。
 このような背景のもとでそれまでに実施された自然再生の事例や技術成果を取り入れ、今までとりまとめられてきた各メニューのマニュアルを集約的に改訂し、1セット(4分冊)にしたものです。
第1巻総論編
 本書では、自然再生を進めていくときの特徴的な考え方や沿岸生態系の科学的理解、最新の技術開発成果を整理しています。さらに造成後のメンテナンスの重要性にも言及しており、順応的な管理といった新しい概念も含めて、地域に根ざした包括的な取り組みの必要性を示しています。
第2巻干潟編
 干潟は、様々な機能を持った場です。本書では、その干潟の機能を生物生息・水質浄化・生物生産・親水に分類し、主要な機能に重点を置いて計画・設計を行う方法が提案されています。施工から維持管理では豊富な実績に基づく技術が紹介されています。現時点では構造物としての干潟は設計・施工できますが、生物生息に関しては試行錯誤が必要と述べています。
第3巻藻場編
 海草藻場は、生物生産および環境保全機能を有する重要な場です。藻場造成は、近年の衰退した藻場の回復や生態系保全を目的として実施されています。本書では、港湾構造物を造成対象とした藻場造成事例から、各海草藻の適地を選定し、藻場造成の計画、設計、施工、モニタリングについてとりまとめています。
第4巻サンゴ礁編
 サンゴ礁は、熱帯雨林と並ぶ生物生産の高い場です。しかし様々な要因により危機的な状況となっています。本書は、港湾構造物を活用したサンゴ礁の再生事例を挙げ、再生の手順、手法および具体的な技術をまとめています。





「環境配慮の標準化のための実践ハンドブック」順応的管理による海辺の自然再生
■ 適用先(紹介事例)について
海辺の自然再生に汎用的に適用することを想定している。
巻末の事例集には、米国における順応的管理の適用例として、ソノマ・ベイランズ湿地実証事業、ポプラー島環境再生事業が紹介され
ている他、国内事例として、山口県椹野川の干潟自然再生事業、徳山下松港の干潟造成事業が紹介されている。

■ 冊子情報
◆著者海の自然再生ワーキンググループ 監修・発行国土交通省港湾局、2007年 規格A4判/294ページ
http://www.mlit.go.jp/kowan/handbook/

この冊子について
 海の自然再生ハンドブック1)に示された生態系の再生の基本理念を港湾行政のグリーン化2)に示された「順応的管理」を適用し実践するために、考え方を具体的に書き下し、海辺の自然再生に関わる人々が具体的に、なにができるのか、なにをすべきなのか、その際にどんなことに配慮すべきなのかということを実践的に示すロードマップを目指している。

第I編の総論に引き続き、第Ⅱ編では、生態系を涵養する場の自然再生を対象とし、第Ⅲ編では、個々の生物の種としての保全や、その種に派生する遺伝的多様性や機能群の多様性を保全するために必要となる棲み処および、それをとりまく環境の保全再生を対象としている。
 「海の自然再生ハンドブック」と合わせての活用により、「できることから」、「できるところから」順応的な管理による自然再生への取り組みが推進されることが期待されている。

目的:自然再生を進める上での新しい概念として「順応的管理」の考え方を提示し、具体的に場の自然再生と生物の
保全・再生について具体的に解説することを目的としている。





順応的管理に存在する3つのレベル

順応的管理手法をシステムとして柔軟かつ堅牢なものとするために、順応的管理を
「目的の設定(レベル1)」→
「個別目標の設定(レベル2)」→
「管理手法の設定、モニタリング、レビュー(レベル3)」の3層構造として捉えた(図1)。

これは、検討の際の問題の範囲の違い、主となる検討者の違いを明らかにしたものであり、手順そのものは、一体的に考えるべきものであることが指摘されている。

影響伝搬図の利用
レベル2においては、場の再生や生物の保全・再生のため
の具体的な行動計画の設定がなされる。対象生物の生活史に
配慮した影響伝搬図(インパクト・レスポンスフロー)等を
用いて、指標生物と環境因子との関係を把握することが推奨
されている(図2、3)。
■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介




3層構造のシステムは、表1のように提示され、レベル1の「包括的目標の設定」およびレベル
2の「具体的な行動計画・事業実施方針」については、事業者と地域住民、NPO等の関係者の合意の
もとに設定することが望ましいことが指摘されている。また、事業の実施が決まり、レベル3の目
標達成基準による管理を実施する段階においては、事業者が主体になって進めるために、順応的管
理に係る意思決定や管理を主導する学識経験者や専門家、民間技術者等からなるチーム(専門チー
ム)を設立し、専門チームが主体になって、地域住民やNPO等の意見をききながら目標達成基準の設
定、モニタリングの実施及び管理手法のレビューや改善を進めていくことが有効と指摘されている。




図1 順応的管理の3層構造
表1 順応的管理のシステム
対象とする干潟・海浜・浅場の再生
既に形成されている生息場 新たに形成する生息場



トカゲハゼの例(一生のほとんどを干潟等の浅海域で過すタイプ)
トカゲハゼへの影響
濁りの発生・拡散
干潟上に届く
光量の減少
付着藻類による基礎生産の低下
水中の栄養塩濃度の低下
海水の滞留
プランクトンの増殖
干潟における淡水の流路の変化
干潟への浮泥の沈降・堆積
底質の巻き上げ
底質の移動、堆積干潟の地盤高の上昇

②生息場所(泥質性干潟)の還元化

①餌(付着藻類)の減少
③泥質性干潟の乾燥化
④生息場所の塩分の変化
 孵化仔魚の拡散、着底幼稚魚の回帰ルートの状況変化
 泥中への酸素の供給不足
 波浪、潮流等の環境変化
⑤着底幼稚魚数の変化

目標レベルの設定
 生物の保全におけるレベル3(目標達成基準の設定)においては、図4のようにラ
ンクに分けた目標レベルの設定という考え方が導入されている。これは、既知の情報
の多少や、生物の生活史・希少性などによって目標レベルを適切に設定するための
指針となる。

①対象種が繁殖し、一定規模の個体数が維持されている。
(繁殖場が適切に維持されている。)
②目標とした生物群集と同程度の個体数が確認できる
③対象種の個体群が毎年存在している。
④対象種が観察できる。
一生のほとんどを干潟域で過すタイプは、観察が容易な種が多いため、より具体的な目標設定が可能である。
また、トカゲハゼ等の貴重性の高い種も、より上位の目標レベルが設定されることが望ましい。
生活史の一時期に確認される種や確認が容易でない種は、下位の目標レベルとすることがふさわしい
図4 生物の保全における目標レベルの設定例

レベル1 包括的目標事業者と利害関係者計画段階達成しようとするねらい委員会やワークショップ等により、事業者と利害関係者が現状の課題や自然再生の方針について情報を共有し、合意形成のもとにとりまとめる。

レベル2 具体的な行動計画・事業実施方針事業者と利害関係者事業計画策定段階目標を達成するために、
具体的に実施すべき行動・事業の内容



「磯焼け対策ガイドライン(水産庁)」~持続的な対策に向けて~
■ 冊子情報
編集「緊急磯焼け対策モデル事業」検討委員会
発行社団法人全国漁港漁場協会、2007年
規格A4判/208ページ/3,000円
http://www.gyokou.or.jp/isoyake.htm
 有用な海藻群落が大規模に消失し漁業に大きな被害を与える現象を「磯焼け」と呼ぶ。近年、我が国周辺の沿岸は、磯焼け等により数千haの藻場が消失している。磯焼け対策を確実に推進し、藻場等の維持・拡大を行い、我が国の豊かな水産資源や生態系の再生を促進することが緊急の課題となっている。
 このため水産庁は、緊急磯焼け対策モデル事業(H16-H18)を実施した。この事業は、これまでの全国各地で行われてきた磯焼け改善に関する様々な研究や試み等の知見と地方公共団体等が行う実証試験を通じた検証を行うものである。
 この事業の成果を取りまとめたのが、本書「磯焼け対策ガイドライン」である。

■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介
【順応的な磯焼け対策】
 本書は、磯焼け対策を順応的に進める方法を「A」~「H」の8つのプロセスで示している。
磯焼け対策は、まずは現況調査や簡易な試験を実施して藻場形成の阻害要因
を明らかにすることから始まる。次に、回復目標を立て、その要因を除去・
緩和する要素技術を用い、はじめは小規模でも確実に藻場を回復させる。
対策後は、モニタリングを定期的に実施し、効果が認められず、回復目
標が達成できない場合は、まず、その理由を明らかにし、その計画・回復目標
を修正し、再度、対策を実施する。目標が達成された場合でも、その理由を明らかにし、
新たな目標に向かって対策を進める。
 このような検討を繰り返すことによって、確実な磯焼け対策につながる。

【磯焼け対策フロー】
順応的な磯焼け対策の内容をわかりやすく示したのが「磯焼け対策フロー」である。
このフローに従って検討を進めることにより、藻場形成を阻害している要因を除去・緩和し、地域の実情にあった要素技
術を見出すことができる。
 途中から始めたり、項目を省略したりせず、順に検討を進めることが重要である。

【藻場形成の阻害要因の特定】
 簡単な現地調査や実験により藻場形成を阻害している要因を特定する方法を解説した。
 これを明らかにすることにより、具体的な対策の方向性を見出すことができる。図の例で
は、現地実験により、食害動物が藻場形成の制限要因であることがわか
る。また、この場所では、藻場が形成できる水質であること、海藻の幼
芽が見えることから種が供給されていることもわかる。

【ガイドラインの趣旨】
本書は、漁業者自らが磯焼けの状況を分析し、地域の実情にあった
持続的な対策が行えるようにまとめたものである。もちろん、漁業者
に協力や支援する立場にある行政担当者、企業、一般市民にも、参考
にしていただきたい。
A 磯焼けの感知
B 藻場形成の阻害要因の特定
C 回復目標の設定
D 阻害要因の除去・緩和手法の検討
E 要素技術の選択
F 要素技術の実施
G モニタリング調査
H 目標達成の判定とフィドバック

【体制づくり】
 持続的に磯焼け対策が実施できるように、漁業者が中心となり、研究者、行政担当者、地域住民、ボランティアらが共同や分担して行う。協議会などで、みんなで考え、情報を共有する場の設置が重要である。
 本書は、全国の磯焼けの継続要因の半数以上である「植食動物の食害」に焦点を当てた。多くの磯焼け海域では、植食動物の摂食量と海藻の生産量とのバランスが崩れ、前者が後者を上回っている。
 また、温暖化や沿岸開発による環境悪化に伴い、ますますバランスが崩れる傾向にある。このような状況の中、ガイドラインは、植食動物の摂食量を減少し、海藻の生産量を増加してバランスを保つための方法を具体的に示すものである。


「アマモ類の自然再生ガイドライン」
再生のための組織作り・合意形成
■冊子情報
◆発行水産庁(漁港漁場整備部計画課調査班)、2007年
制作社団法人マリノフォーラム21規格A4判/本編119ページ/資料編97ページ
問い合わせ先社団法人マリノフォーラム21 TEL:03-3837-5212(代表)
http://www.mf21.or.jp

■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介
組織づくり
 協働によるアマモ場再生で重要な「組織づくり」や「合意形成」について、事例を交えつつ具体的な方策が紹介されている。例えば、意思決定の方法や会計処理に関するルールづくり、参加者を増やすポイント、活動資金の確保、役割分担、情報公開の留意点など協働の組織が抱えるさまざまな課題に対応できるように取りまとめられている。

目標の設定
 再生が技術的に可能か?再生は将来的に必要か?アマモの消失原因は?地域社会への貢献は?など多様な主体との合意形成を進めながら十分に検討を重ねた後、目標の設定では以下に配慮するものとされている。
・実現可能な目標であること
・段階的な目標を設定すること
・参加者が共有できわかりやすい目標であること

順応的管理
 再生における科学的・技術的不確実性や協働に伴う不確実性が想定されることから、アマモ生育上の不具合や、協働活動に伴う地域での問題等が生じた場合に、有識者の指導を受けてその原因を究明し、計画を変更して対策を講じ、臨機応変な対応(順応的管理)を取れるように、体制や枠組みについて実施計画策定の際に考えておくことが望ましいとされている。
 また、再生事業の評価としては、参加者数や参加者の満足度などを指標にした協働事業に関わる「事業評価」とモニタリング結果に基づく「技術評価」の2つが考えられている。

■この冊子のねらい
 我が国では、1960 年代から水産系の試験研究機関を中心にアマモ場再生の試みが実施され、その後、環境回復や保全を図る観点から民間企業や港湾行政による調査研究成果も加わった。瀬戸内海等で大規模なアマモ場再生や修復事業が実施され、2002年には「アマモ場造成技術指針」の発刊となった。
 一方、1990 年代後半から2000 年代になると、漁業者や一般市民団体によりアマモ場の再生を試みる活動が行われるようになり、さらに特定非営利活動促進法、新・生物多様性国家戦略の決定、自然再生推進法の制定等によりNPO 法人等によるアマモ場の再生活動が全国へ広がりつつある。
 本書は、漁業者や市民団体を核としたNPO 法人等によるアマモ類の自然再生活動を推進する普及指導者のための「ガイドライン」として編纂された。活動推進の普及指導者として自治体水産担当職員、水産研究員、普及指導員等を想定しており、アマモ類の遺伝的な多様性に関する情報も含んだ最新の専門的な情報から、全国でのアマモ場再生と利活用事例調査に基づいた解析結果まで網羅されている。

アマモ場再生の計画手順
■ 適用先について
全国のアマモ類の自然再生活動への適用が想定されている。

■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介
■ 適用先について
東京電力(株)東通原子力発電所,(株)クリーンコールパワー研究所石炭ガス化複合発電実証試験研究設備,住友共同電力(株)新居浜西火力発電所,沖縄電力(株)吉の浦火力発電所など
■ 関連情報・参考文献
平成9年環境影響評価法
平成9年環境影響評価の基本的事項(平成17年改正)
平成10年発電所の設置又は変更の工事の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査,予測及び評価を合理的に行うための手法を
選定するための指針,環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令通商産業省令第五十四号(平成18年改正)
「発電所に係わる環境影響評価の手引」
藻場影響評価部分の解説
■ この冊子のねらい
 電力の安定供給を今後とも確保していくために,環境保全に十分な措置を講じ,地元の理解と協力を得つつ発電所の立地を進めていくことが重要である。
 発電所の環境審査については,昭和52年に省議決定し,環境影響評価制度の整備・充実が図られた。その後,平成9年に環境影響評価法の制定に伴い,電気事業法も整備され,法令に基づく発電所の環境審査がスタートした。
 「発電所に係る環境影響評価の手引」では,環境影響評価法及び電気事業法に規定される発電所の環境影響評価の手続きについて順を追って記載されるとともに,発電所アセス省令で定める参考項目及び参考手法について,解説を付し理解の便が図られている。
 また平成17年に「環境影響評価の基本的事項」の一部改正を受けて,発電所アセス省令が改正された。これを受け,「発電所に係る環境影響評価の手引」は平成19年に改訂された。

■ 冊子情報
平成11年6月版 編者資源エネルギー庁 発行株式会社電力新報社
規格A5判/758ページ/4,000円+税 平成19年1月改訂版
発行経済産業省原子力安全・保安院
http://www.nisa.meti.go.jp/8_electric/assessment/document/tech_info.html

対象となる藻場:
・周辺1kmの範囲内
・温排水拡散推定範囲を包含する範囲の面積1ha以上,水深20m以浅の藻場
・取水口前面海域

対象となる環境要素:
・地形改変及び施設の存在(港湾施設の設置や埋立による影響が考えられることから)
・施設の稼働(温排水)(温排水の影響が想定されることから)

調査:
・藻場分布域の位置,範囲,面積,タイプ,粗密度,
・主要な藻場構成海藻草類の種類別出現量(被度,個体数,湿重量から選択)
・その他海藻草類の種類別被度,
・魚等の遊泳動物の種類と分布の状況,
・底生動物の種類別出現量(個体数,湿重量から選択)
・生育環境(水質,底質,地形)について文献その他の資料または現地調査によって調べる。

影響予測:
藻場に生育する植物(藻場を含む)及びその生育環境への影響を定性的に予測する。
藻場に生息する動物及びその生息環境への影響を定性的に予測する。

影響評価:
調査及び予測の結果に基づいて,事業者により実行可能な範囲内で回避又は低減されているかを検討し,
環境保全についての配慮が適正になされているかどうかを検討する。

調査結果のまとめ:
・調査位置図(藻場,遊泳動物,底生動物,生息環境)
・藻場分布図(繁茂期)(位置,範囲,面積,タイプ粗密度,等深線)
・遊泳動物・底生動物の季節別出現状況表(種類数,個体数(or湿重量),主な出現種)
・遊泳動物の特徴(分布,漁場,産卵,生長,食性,水温との関係)
・底生動物の季節別出現状況図(地点毎の分類群別個体数or湿重量)
・水質調査結果図表
・底質調査結果図表
にまとめる。

対象となる藻場がある場合
目標環境の状況の変化又は環境への負荷の量を把握し,影響が事業者により実行可能な範囲内で回避又は低減されているかを検討し,その結果を踏まえ,必要に応じその他の方法により環境の保全についての配慮が適正になされているかどうかを検討する。

「ビーチ計画・設計マニュアル」
ビーチの計画・設計・施工・維持管理について
■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介
新しいビーチの考え方
 海岸法の理念に基づき、ビーチの持つ防護機能、利用・環境に対する配慮事項が整理されている。
ビーチ整備における環境配慮については、各海浜の生態系やその機能、生物の海浜の利用の仕方を
把握し、必要に応じて注目する種や群集を選定し、整備・管理の各段階において生物に配慮するも
のとされている。また、生物の特性には不明な点が多いことから、実施に当たっては順応的な取組
みを行うことが望ましいとされている。

ビーチの設計
海岸の特性と必要なビーチ規模に基づいてビーチを設計し、ビ
ーチの安定性と周辺海岸への影響を評価するフローを提示してい
る。また、ビーチの平面形状・断面形状の検討方法が具体的に示
されている。さらに、設計における利用・環境への配慮事項が例
示されており、代表生物種の生態や生息場所の環境特性の確保を
設計条件に加えて検討する必要があるとしている。

ビーチの景観設計
 周辺地域の景観特性を十分に把握した上で、その特性を活かし
地域の魅力を向上させる施設のデザイン・コンセプトを設定し、
それに基づいたデザインを行うフローを提示している。そして、
砂浜を含む各施設について、配慮すべき事項を示している。

ビーチの維持管理・運営
 関係行政機関、地域住民、NPO等と協力するとともに、ビーチ
の防護、利用、環境の特性を踏まえ、適切に維持管理を実施する
必要があるとしている。環境面からは、モニタリング調査の実施
とそのフィードバックによる順応的な対応を行うことが望ましい
としている。また、ビーチにおける安全管理の方策が具体的に示
されている。

■ 適用先について(取り上げられているケーススタディ等)
港湾開発に汎用的に適用することを想定している。
ビーチ整備における住民参加手続きの実施事例として、横須賀馬堀海岸と別府港海岸が取り上げられている。
■ 冊子情報
監修国土交通省港湾局 編集・発行社団法人日本マリーナ・ビーチ協会、2005年
規格A4判/229ページ/9,000円
Webサイトhttp://www.jmba.or.jp
 平成11年に海岸法が改正され、防護、環境、利用の調和のとれた海岸の形成を目的として、海岸事業が推進されるようになりました。また、平成16年には「海岸保全施設の技術上の基準・同解説」が大幅に改訂され、更に景観法も制定されました。
砂浜(ビーチ)の利用に関しては、海水浴が圧倒的にポピュラーですが、近年では、年間を通して様々な形でビーチを利用する社会的な要請が強まっております。

 平成4年に「ビーチ計画・設計マニュアル」が発行されてから13年の時が経過し、ビーチをめぐる社会的要請は大きく変化し、新たな技術的知見も多く蓄積されてきたので、本書を根本的に改訂することになりました。
 本書は、海岸法の目指す理想を追求し、「技術上の基準」を補完して易しく解説することを目的に編集しました。それは、安定したビーチの形成を目指す技術的整備手法の検討に留まらず、快適な利用、適正な管理運営、美的景観形成等を実現するためのソフト面の対策にも十分に配慮した総合的かつ体系的解説書となっています。

■ 主な論点・アイデア・考え方の紹介
■ 今後の希望
今後は、生物を含む沿岸・海洋環境の全体像把握のための、総合的な対応が求められる生態系調査、あるいは調査結果の評価に関するマニュアルの刊
行が望まれます。
■ 関連情報・参考文献
社団法人海洋調査協会では、海洋調査技術マニュアルとして、海洋生物調査編のほか深浅測量編、海象・気象調査編、海洋地質調査編、危険物探査編を販売しております。また、来春刊行に向けて水質・底質調査を中心とした環境調査編を準備中です。

「海洋調査技術マニュアル海洋生物調査編」にみる実践的な調査フロー
■ この冊子のねらい
海洋調査技術マニュアル海洋生物調査編は、(社)海洋調査協会の会員会社やその他調査技術者が生
物調査を実施する際、発注から報告書の作成までの業務の流れについて、実務レベルで頼りになる手引き
書を目指した、実用性の高い書籍です。
 本編は平成2年の初版以後、平成10年の改定に次ぐ、2度目の改訂版です。執筆者も若返り、サンゴ調
査を加え、参考文献の他に関連サイトのURLを記載するなど最近の情報化にも対応しています。

第1章は調査全般に関する留意点や、調査実施に必要な公文書の作
成要領などが記述され、本書の特長となっています。各生物に関する
調査マニュアルは、現場でも活用できるように実用的な記述が心がけ
られています。
■ 冊子情報 編者社団法人海洋調査協会 発行社団法人海洋調査協会、2006年
規格B5判/219ページ/2,500円+税
http://www.jamsa.or.jp
 海洋生物調査はその目的に応じて、主として開発行為による環境影響予測・評価に係わるもの、水産業振興に資する漁業生物資源把握に係わるもの、自然再生事業における生物把握に係わるも
のの三つに大別されます。
 ここでは、自然再生に向けた取り組み(図1)について見てみます。生物調査の全体フロー(図2)において、取り組みの目標設定に即した調査目的を設定し、的確な調査を実施し場を理解し、システム化のための解析・考察を行ない、報告書では次のステップへの提言を行なうことになります。
 本冊子の主要な部分は、各グループの生物調査の手順について解説していますが、上述の流れを理解し、計画者ここでは発注者との調整や、調査協力者である漁業者との現場折衝を実施し成果を挙げる、トータルなコンサルティング技術者のあり方にも言及している点に注目してください。

■開発計画についての対話

■開発計画にみる目標設定について
 政策・法令やガイドラインなどを受けて、実際に開発計画として実施に移されているものとして、流
域圏を含む海域の再生を目指した「全国海の再生プロジェクト」、「瀬戸内海環境修復計画」や、地域
における再生計画として「三番瀬再生推進計画」「横須賀港港湾環境計画」など4事例を紹介します。
■今回収録された4つの開発計画
 :「ここまで見てきて、技術的な、テクニカルなところは随分やられてき
て、マニュアルとかガイドラインに書かれているようですね。でも、目標
設定のところ、例えば、大阪湾とか東京湾の再生事業をやりましょうと
いった場合に、その場所に藻場がいいのか、干潟がいいのか、そういう
選択のときに、なにか評価になるような基準や、合理的な設定の仕方み
たいなものが、技術開発していかないといけないということが浮かび上
がってくるような感じがありますね。」

:「そういった目標の設定は、自然科学だけの事情だけでは決まらな
いのではないでしょうか。例えば、その場は昔どういうふうに使われてき
たのか等を知ることで、保全だけではなくて、人間が使うこと、いわゆる
開発も含めて十分考えていくことが大切と思います。」

:「具体に、各地で行われている修復計画だとか再生計画を見ると、
その辺の違いが明確になるかもしれません。ここでは、主に都市域を中
心とした再生計画として、東京湾、大阪湾、伊勢・三河湾、広島湾で再
生行動計画を設定している『全国海の再生プロジェクト』や、水産庁と国
交省と共同で計画を立てた『瀬戸内海環境修復計画』、地域での計画の
例ということで、『千葉県三番瀬再生計画』や、『横須賀港港湾環境計
画』があります。」

:「それぞれの計画で目標の立て方や、その実現の仕方にそれぞれ
の計画で工夫を凝らしているようですね。」

:「そうですね。『全国海の再生プロジェクト』では、多くの行動計画で、
再生のイメージや優先順位を明確にするために、重点エリアとかアピー
ルポイントが指定されていることがあります。『瀬戸内海環境修復計画』
では、修復計画を適用するスケールを、瀬戸内海全体、湾とか灘のレベ
ル、地域レベルのように空間スケール毎に目標を考える階層構造をとっ
ていることが特徴だと思います。」

:「横須賀港の港湾環境計画では、行動指針が全部で85個、地区毎
に設定されているのですが、実行可能性を検討して、優先される行動計
画を先導的取り組みと名づけて18個に絞っています。網羅的な目標を
掲げた上で、今できることを抽出するという、理念と実際にできることの
橋渡しをする計画になっています。」

:「今までの議論を振り返ると、自然再生というのは、自然再生や環境
保全の側面と、人の利用(開発)の側面の理念をとり入れた調和環境調
和型事業として位置づけて考えたらよいのではないかということが言え
ると思いますが、そうした考え方が、これら計画の中には反映されてい
るわけですね。」

:「そうだと思います。そうした考えをまとめた概念は、統合沿岸域管
理だとか、包括的計画立案などではないかと思います。そして、順応的
管理や、PDCA、実験的取り組み等は、それをやるための1つの方法だ
と思うのです。」

:「ええ、何となく理解できてきます。そうすると、少しさかのぼると、自
然再生というのは最初、失われた自然をつくり出すというところから出発
していたように思うんですけれども、少し定義が広がっていると考えてい
いんですね。」

:「そのとおりだと思います。『最適な生態系』等を考えると、今の環境
条件に最適な生態系であるべきで、必ずしも昔の姿にイコールじゃない
かもしれない。さらにそれを進めると、生態系サービス、人まで含めたよ
うなところで最適化するという方向性があると考えられるのではないで
しょうか。」

:「さらに言うと、環境基本法の中では一番表に、環境の保全があって、
環境保全を構成する1つのパーツとして自然再生・利用があるという考
え方ですが、海洋基本法だと、海洋の利用が前面にあって、その中の
パーツとして環境保全が出てくるわけです。大もとの軸をどこに置くかで
考え方が異なるわけですね。」

:「要するにスタンスが違うということだと思います。例えば、海洋基本
法にある6つぐらいの理念も、立場によって何が自分に一番の目標で
あって、そのための手段が何かというのことが全部変わってくる可能性
があります。水産の立場には水産の立場、海運業には海運業の立場、
環境保全の立場には・・・というのがあって、ウエートづけが理念の中で
も並列じゃなくて、目標と手段にそれぞれ違ってくる可能性があるように
思えます。」

「全国海の再生プロジェクト」における各海域の再生行動計画

東京湾再生のための行動計画
発行東京湾再生推進会議、2005年3月策定
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/SAISEI/

伊勢湾再生行動計画
  http://www.cbr.mlit.go.jp/kikaku/isewan_saisei/
 平成16年6月に策定された国土交通省環境行動計画において、「関係部局、自治体等が一体となり、全
国の閉鎖性海域の環境改善のための行動計画(ベイルネッサンス計画)を海域毎に策定し、各海域にお
ける総合的な施策を推進する」と記載され、東京湾・大阪湾・伊勢湾・広島湾において先行的に海域の
再生行動計画が策定された。
 各海域の再生目標を明確にするとともに、それを実現するための行動計画(海の再生のメニュー)、
施策の推進方策について、具体的に列挙している。
先行して実施されている再生プロジェクトの成果や課題、教訓等を基に、全国の閉鎖性海域(88海
域)の再生プロジェクトに展開させることを目標として、関係省庁、地方自治体等が相互の連携を強化
し、再生プロジェクトの普及啓発、意見交換等、情報の共有化を図ることが重要とされている。


目的:都市再生本部の第三次決定に記載された大都市圏の「海の再生」を図るために、関係地方公共団体及び関係省
庁が連携して行動計画を策定し、その効果的かつ効率的な推進を図ることを目的としている。

主要なメニューとして、
①陸域からの汚濁負荷の削減、
②海域環境の改善、
③環境モニタリング、
④海域の環境教育、
⑤市民参加型のイベント等
が各海域の目標に合わせて適用されている。

■ 主な論点・アイデア・考え方
中間評価・フォローアップ
 行動計画の推進状況を管理するために、毎年、フォローアップのために再生行動推進会議を開催するとと
もに、およそ3年毎の中間評価が実施され、施策の推進状況の確認、行動計画の見直し等が行われている。
実験的取り組み行動計画に適用されるメニューを開拓し、事業を推進していくために、研究機関等による先進的な取り組
みを「実験的取り組み」として行動計画に位置付けている。




大阪湾再生行動計画
発行大阪湾再生推進会議、2006年3月策定
 http://www.kkr.mlit.go.jp/plan/suishin/
森・川・海のネットワークを通じて、美しく親しみやすい豊かな「海庭
(なにわ)の海」を回復し、京阪神都市圏として市民が誇りうる「大阪
湾」を創出する。



広島湾再生行動計画
◆発行広島湾再生推進会議、2007年3月
http://www.cgr.mlit.go.jp/chiki/hiroshimawan/


森・川・海の健やかな繋がりと豊かな恵みを活かし、美しく親しみやす
い「広島湾」を保全・再生し、次世代へ継承する。
快適に水遊びができ、多くの生物が生息する、親しみやすく美しい
「海」を取り戻し、首都圏にふさわしい「東京湾」を創出する。
伊勢湾の環境基準の達成を目指し、多様な生物が生息・生育する、人々
が海と楽しく安全にふれあえる、美しく安全で活力ある伊勢湾の再生。
参考:都市再生本部第3次決定(抜粋)

Ⅲ 大都市圏における都市環境インフラの再生
3.水環境系の再生
地表の被覆等の都市化に起因してその健全性が大きく損なわれている
都市の水循環系について、河川や海の再生、市街地の雨水貯留・浸透機
能の回復等、各領域の施策を総合的に推進することによりその再生を図る。

(2) 海の再生
水質汚濁が慢性化している大都市圏の「海」の再生を図る。先行的に
東京湾奥部について、地方公共団体を含む関係者が連携してその水質を
改善するための行動計画を策定する。

■ 冊子情報(海域毎)
「瀬戸内海環境修復計画」自然と共生する恵み豊かな瀬戸内海の修復を目指して
■ 適用先について
瀬戸内海全体~湾・灘レベル~地域レベルそれぞれの段階の修復を対象とする。
ただし、ここで修復とは、創出と再生を含むものと定義されている。
■ 冊子情報
編集・発行国土交通省中国地方整備局・水産庁漁港漁場整備部、2005年
http://www.cgr.mlit.go.jp/chiki/kouwan/setouchi/keikaku.html
この計画では、瀬戸内海における環境修復を具体的に進めるため、湾・灘別の特性・課題の整理を行
い、それぞれの対処方針や環境修復目標の設定方法、水産基盤整備事業、海岸及び港湾事業の実施者が連
携して効率的な事業を行えるようなモデル計画案が示されています。
 過去に失われた良好な環境を取り戻すために、藻場・干潟といった浅場の修復が中心的に検討されて
います。その中で、藻場・干潟は、多様な水産生物の生息の場、水質浄化や自然と共生する豊かな沿岸
域環境における重要な場と位置付けられています。

基本理念:瀬戸内海が我が国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝の地として、また国民にとっ
て貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民が等しく享受し、後代の国民に継承すべきものであるとい
う認識になって、それにふさわしい環境を確保し維持すること及びこれまで開発等に伴い失われた良好な環
境を回復すること

■ 主な論点・アイデア・考え方
「千葉県三番瀬再生計画(基本計画)」
に示された再生目標
■ 適用先について
 三番瀬の再生に適用するための計画ですが、「再生に向けて講ずべき施策」に係る事業については、県が主体となって実施する事業を中心に、
千葉県三番瀬再生計画(事業計画)として取りまとめ、県以外が実施する事業についても必要な協議・調整を行うこととなっています。
■ 冊子情報
◆編集・発行千葉県総合企画部企画調整課三番瀬再生推進室、2006年 規格A4判/41ページ
http://www.pref.chiba.lg.jp/syozoku/b_soukei/sanbanze/kenkeikaku/keikaku_index.html
■ この計画について
 千葉県では、三番瀬の自然環境の再生と地域住民が親しめる海の再生を目指して、2002年1月から2年間(22
回)の議論を経た三番瀬円卓会議からの提言(三番瀬再生計画案:2004年1月22日)をもとに、知事の諮問機関
である三番瀬再生会議からの答申、県議会での議論及びパブリックコメントなどを踏まえ、再生の目標や具体的
な事業などを定めた「千葉県三番瀬再生計画」が2006年12月に策定されました。
 千葉県三番瀬再生計画は、再生の理念や目標を示した「基本計画」と、具体的な再生事業を体系的に整理した
「事業計画」で構成されています。

目的:基本計画では、5つの「基本的な方針」、4つの「再生に当たっての進め方」、12の「再生に向けて講ずべき施策」、2つの
「再生の推進方法」が定められています。

基本的な方針
三番瀬の再生のための大項目、取り戻したい要素、第一歩、長期的目標、取り戻
したい生物などの議論を参考に、5つの目標、
①生物多様性の回復、
②海と陸との連続性の回復、
③環境の持続性及び回復力の確保、
④漁場の生産力の回復、及び
⑤人と自然とのふれあいの確保が
定められ、それぞれの達成イメージが明示されました。

再生にあたっての進め方
人間は、自然、生物、生態系等の自然環境のすべてがわかるものではないことを
認識し、常に謙虚に、そして慎重に行動することを基本とし、以下の点に留意するも
のとされています。
①科学的な知見及び漁業者の経験的な知見の活用
②予防的態度及び順応的管理
③賢明な利用
④協働による取組再生に向けて講ずべき施策

①干潟・浅海域、
②生態系・鳥類、
③漁業、
④水・底質環境、
⑤海と陸との連続性・護岸、
⑥三番瀬を活かしたまちづくり、
⑦海や浜辺の利用、
⑧環境学習・教育、
⑨維持・管理、
⑩再生・保全・利用のための制度及びラムサール条約への登録促進、
⑪広報、
⑫東京湾の再生につながる広域的な取り組み
■ 主な論点・アイデア・考え方
再生の推進方法
事業の実施については、順応的管理により、
1 実施に係る計画の策定(Plan)、
2 実施(Do)、
3 評価(Check)、
4 対策の検討(Action)という
「PDCA」のマネジメントサイクルに則り、進めていくこととされています。
 また、これまでに経験のない取り組みや長期間にわたる取り組みを進める必要があるため、
財政状況を勘案しつつ、一層の創意工夫や効果的な推進体制の構築が必要であり、行政間
の連携、徹底した情報公開と住民参加により、関係者が、互いの立場の違いを理解しつつ、再
生の目標を共有し、協力し合いながら三番瀬の再生に取り組めるよう努めるとされています。


「横須賀港港湾環境計画」海の再生・活性・共生
■ 適用先について
横須賀港全体を対象とし、多様な環境と港湾・都市との調和を図るために、港・海・自然・文化・歴史といった広い分野を対象としています。
■ 冊子情報
編集・発行横須賀市、2005年
◆規格(概要パンフレット)A4判/8ページ
http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/minato/
■ この計画について
 この計画は、港及び都市と環境が調和した横須賀港特有の沿岸域を形成するため、多様な環境を保全
し、実践するために、港湾計画の環境施策を補完し、実践する計画として、策定されました。
計画では、基本的理念を示すとともに、実践が大きなテーマとして捉えられており、基本理念・基本
方針に基づく行動計画が示されています。その行動計画は、緊急性、実施による効果、実現性、取り組
みどうしのつながり、効率的な順序、実施のしやすさなどを評価し、具体的な行動計画を選定するとい
う、戦略的な考え方が導入されています。
 特に、行動計画の中でも高い評価を受けた17の先導的取り組みが具体に提案されています。

基本理念:『市民との協働による「エコタウンポート」の形成』を目指して、横須賀港の有する、港、海、自然、
文化、歴史を活かし、市民と行政が協働で「再生・活性・共生」に取り組み、人々がこれを享受するととも
に、まちづくりに貢献する。
■ 関連情報・参考文献
6つの基本方針:
<基本方針1> <基本方針4>
 「市民協働による推進」「海の環境再生」
<基本方針2> <基本方針5>
 「利用と環境の調和」「活力あるまちの創造」
<基本方針3> <基本正真6>
 「隗的な生活環境の形成」「横須賀ブランドの活用」

■ 主な論点・アイデア・考え方
再生のエリア~環境を修復するエリア~
活性のエリア
~環境資源の回復・活用を図るエリア~
共生のエリア
~自然と人の利用が共存するエリア~
今後の取り組みについて
 港湾環境計画には、地域の特徴に応じた様々な行動指針、先導的取り組み、行動計画が提案されており、「できることか
ら、できるところから、継続して」を念頭に、まずは行動計画からスタートし、その結果を見つつ、順次、次のステップ(先導的
取り組み、行動指針)へと広げていく順応的な取り組み方針が示されています。

編集発行事務局
国土技術政策総合研究所 沿岸海洋研究部海洋環境研究室

http://www.meic.go.jp/kowan/kenkyu/tokyo071207/panel2007.pdf



  

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2010年02月27日

生物多様性の状況、傾向および脅威に関する概観

生物多様性の状況、傾向および脅威に関する概観

1.日本の生物多様性
1.1 日本の生物多様性の特徴
 わが国の既知の生物種数は9万種以上、分類されていないものも含めると30
万種を超えると推定されており、約3,800 万ha という狭い国土面積(陸域)に
もかかわらず、豊かな生物相を有している。
 また、固有種の比率が高いことも特徴で、陸棲哺乳類、維管束植物の約4割、爬虫類の約6割、両生類の約8割が固有種である。先進国で唯一野生のサルが生息していることをはじめ、クマやシカなど数多くの中・大型野生動物が生息する豊かな自然環境を有している。

 このような生物相の特徴は、国土が南北に長さ約3,000km にわたって位置し、季節風の影響によるはっきりした四季の変化、海岸から山岳までの標高差や数千の島嶼を有する国土、大陸との接続・分断という地史的過程などに由来するほか、火山の噴火や急峻な河川の氾濫、台風などさまざまな攪乱によって、多様な生息・生育環境がつくりだされてきたことによるものである。
 堤防がつくられ、洪水の氾濫が少なくなることで、自然による攪乱は減少したが、その一方で、農林業などを通じて適度に人の手が加えられた環境が形成されたことにより、オキナグサやオオルリシジミなどそのような環境下で生息・生育する生物の生存を可能としてきた。

 わが国においては、自然環境保全基礎調査の結果に基づき、全国土を覆う5万分の1レベルの現存植生図が整備されている。それぞれの植生タイプが国土面積に占める割合を見ると、森林(自然林、自然林に近い二次林、二次林、植林地)は全国土の67%を占めており、スウェーデン(70%)など北欧諸国並みに高く、イギリス(12%)、アメリカ(33%)などと比べ、先進国の中では圧倒的に大きな値となっている。
 日本の国土の約3分の2を占める森林のうち、自然林は国土の17.9%で、自然草原を加えた自然植生は19.0%となっている。これらの自然植生は主として急峻な山岳地、半島部、島嶼といった人為の入りにくい地域に分布しており、平地や小起伏の山地では二次林や二次草原などの代償植生や植林地、耕作地の占める割合が高くなっている。
 こうしたさまざまな段階の生態系が、さまざまな緯度、標高、水環境に立地することにより、わが国は非常に豊かな生態系の多様性を有している。特に、わが国においては、降水量が豊かで、自然の遷移が進む中にあって、明るい環境を好む多くの植物や昆虫類が生育・生息していくため、湿原、二次草原を含む草原、氾濫原、二次林などの生態系が、その明るい状態を保っていることが重要である。
 こうした生態系は、わが国の気候や地史と自然と共生した生活の結果残されてきた特徴あるものといえるが、現在では広い範囲で失われてきている。




 海洋についても、黒潮、親潮、対馬暖流などの海流と列島が南北に長く広がっていることがあいまって、多様な環境が形成されている。沿岸域でも、地球の4分の3周に相当する約35,000km の長く複雑な海岸線や豊かな生物相を持つ干潟・藻場・サンゴ礁など多様な生態系が見られる。このため、日本近海は同緯度の地中海や北米西岸に比べ海水魚の種数が多いのが特徴である。
 日本近海には、世界に生息する112 種の海棲哺乳類のうち50 種(クジラ・イルカ類40 種、アザラシ・アシカ類8種、ラッコ、ジュゴン)、世界の約15,000 種といわれる海水魚のうち約25%にあたる約3,700 種が生息するなど、豊かな種の多様性がある。

※ 図1 植生の現況

1.2 絶滅のおそれのある野生生物の現状
 絶滅のおそれのある野生生物の種を取りまとめた環境省レッドリストでは、日本に生息・生育する爬虫類、両生類、汽水・淡水魚類の3割強、哺乳類、維管束植物の2割強、鳥類の1割強にあたる種が、絶滅のおそれのある種に分類されている。この中には、南西諸島や小笠原諸島などの島嶼域に生息・生育する種も多くあり、ヤンバルクイナ、ツシマヤマネコなどの一部の種では、保護増殖の取組を行っている。メダカに代表されるように、里地里山に生息・生育する身近な種や水辺の種も多く選定されている。また、下北半島や西中国地域のクマなどのように、生息地の分断などにより地域的に絶滅のおそれがある野生生物もいる。これらの生物の減少要因としては、生息地破壊や分断化、人間の働きかけの縮小に伴う環境の変化、乱獲、外来種の影響などが指摘されている。
 一方、サクラソウやアサザのように、保全の努力によって絶滅の危険性が下がった種も見られるが、これらの種についても、引き続き保全対策の継続が必要である。

1.3 レッドリストの見直し
 環境省では、平成14 年度からレッドリストの見直しに着手し、平成18 年12月には、全10 分類群中、鳥類、爬虫類、両生類及びその他無脊椎動物の4分類群について、平成19 年8月には、哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物Ⅰ及び植物Ⅱの6分類群について、新たなレッドリストを公表した。
 その結果、絶滅のおそれのある種(絶滅危惧種)は見直し前の2,694 種から、3,155 種となった。

 哺乳類(純海産種(主に浅海域に依存するジュゴン以外)を除く。)については、絶滅危惧種の総数は6種減少し42 種となった。これは、哺乳類の評価対象種の多くを占めるコウモリ類(46 種)において情報の蓄積が進んだ結果、ランクの下がった種が13 種と多かったことによる。
 また、イリオモテヤマネコについては減少傾向が見られることからランクが上がったほか、ジュゴンを新たに評価対象種に加えた結果、絶滅危惧種となった。一方、ヤクシマザル(ニホンザルの亜種:屋久島に生息)と地域個体群として掲載していたホンドザル(ニホンザルの亜種:本州、四国、九州(屋久島を除く。)に生息)の下北個体群については、個体数が増加していることからランク外とされた。

 鳥類については、絶滅危惧種の総数は3種増加し92 種となったが、より詳細に見ると、前回リストよりランクが下がった種が11 種であるのに対し、今回新たに絶滅危惧種と判定された9種を含め、ランクが上がった種が26 種あり、多くの種がより上位のランクへ移行した。ランクの上がった種の多くが、草原、低木林や島嶼部を生息地とするものであり、これらの地域の生息環境の悪化や島嶼部における外来種の影響が考えられる。
 例えば猛禽類では、里山を中心に生息するサシバが新たに絶滅危惧種となった一方、オオタカは絶滅危惧種から準絶滅危惧種となった。

 爬虫類では、絶滅危惧種の総数が13 種増えて31 種となったが、そのうち30種は南西諸島に生息するものとなっており、南西諸島の爬虫類の多くが危機的状況にあるといえる。多くの種で、生息環境の悪化や外来種による影響が示唆されたが、一部の種では、ペット用の捕獲による影響も考えられる。

 両生類では、絶滅危惧種の総数は7種増えて21 種となり、今回ランクの上がった種の多くは小規模な開発又は外来種による影響が、一部の種ではペット用の捕獲による影響が考えられる。特に国内に生息する19 種のサンショウウオ類のうち11 種が絶滅危惧種となっており、生息環境の悪化の影響がその原因と考えられる。



 汽水・淡水魚類では、絶滅危惧種の総数は前回から68 種増えて144 種となったが、その理由は南西諸島産の種を評価対象に多く加えたことに加え、田園地帯に生息するタナゴ類などのランクが上がったことによる。他にも琵琶湖のニゴロブナ、ゲンゴロウブナも新たに掲載されており、これらの種の生息環境の悪化やオオクチバスなどの外来種による影響が原因と考えられる。
 また、ムサシトミヨやヒナモロコのように、生息域が非常に限られた種については、引き続き絶滅危惧種とされた。

 昆虫類では、絶滅危惧種の総数は68 種増えて239 種となった。特に小笠原や南西諸島などの島嶼部に生息する昆虫類について外来種の影響により深刻な状況にあるほか、ゲンゴロウ類についても多くの種のランクが上がるなど生息環境の悪化や捕獲による影響が考えられる。

 貝類では、絶滅危惧種の総数は126 種増えて377 種となったが、その主な原因としては、新たに評価対象に加えた河口部などの汽水域に生息する種の多くが絶滅危惧種とされたことと、陸産貝類(カタツムリなど)の生息状況が悪化したことなどが考えられる。

 その他無脊椎動物では、絶滅危惧種の総数は23 種増えて56 種となり、その主な要因は情報が蓄積されたことによるものであるが、生息環境の悪化も要因と考えられる。例えば干潟などに生息するシオマネキのランクが上がった。
 また、西日本の干潟に生息するカブトガニは、引き続き絶滅危惧種となった。

 植物Ⅰ(維管束植物)では、絶滅危惧種の総数は25 種増えて1,690 種となった。その内容としては、情報の蓄積が進んだ結果ランクの上がった種、下がった種が多くあるほか、アサザ、サクラソウ、サギソウなど保全のための努力が払われた結果、絶滅危惧種から準絶滅危惧種となった種もあるが、キレンゲショウマなど西日本を中心にシカの食害によって新たに絶滅危惧種となった種もある。

 植物Ⅱ(維管束植物以外)については、絶滅危惧種の総数は134 種増えて463種となったが、その理由は新たに評価対象種を加えたほか、特に湖沼、ため池などに生育する藻類について絶滅危惧種となった種が多いことであり、これらの種の生育環境の悪化が考えられる。

※ 図2 わが国における絶滅のおそれのある野生生物の種類

2 わが国の生物多様性の危機の構造
 わが国の生物多様性の危機の構造は、その原因及び結果を分析すると次のとおりとなる。

2.1 第1の危機(人間活動や開発による危機)
 第1の危機は、人間活動や開発など人が引き起こす負の影響要因による生物多様性への影響である。鑑賞用や商業的利用による個体の乱獲、盗掘、過剰な採取など直接的な生物の採取とともに、沿岸域の埋立てなどの開発や森林の他用途への転用などの土地利用の変化による生息・生育地の破壊と生息・生育環境の悪化が要因として挙げられる。
 また、河川の直線化・固定化や農地の開発などによる、広大な氾濫原、草原や湿地の消失も要因といえる。

 これらの影響については、林地や農地から都市的土地利用への転換面積や沿岸域の埋立面積を見ると、高度経済成長期やバブル経済期と比べると近年比較的少なくなり、安定化に向かっているといえるが、その程度は鈍化したものの影響は続いている。

 これらの問題に対しては、対象の特性、重要性に応じて、人間活動に伴う影響を適切に回避、又は低減するという対応が必要であり、原生的な自然の保全を強化するとともに自然生態系を改変する行為が本当に必要なものか十分検討することが重要である。
 さらに、既に消失、劣化した生態系については、科学的な知見に基づいてその再生を積極的に進めることが必要である。

※ 図3 第1の危機 林地から都市的利用への土地利用転換面積
沿岸域の埋め立て地の増加面積

2.2 第2の危機(人間活動の縮小による危機)
 第2の危機は、第1の危機とは逆に、自然に対する人間の働きかけが縮小撤退することによる影響である。薪炭林や農用林などの二次林、採草地などの二次草原は、以前は経済活動に必要なものとして維持されてきた。
 こうした人の手が加えられた地域は、その環境に特有の多様な生物をはぐくんできた。また、氾濫原など自然の攪乱を受けてきた地域が減ったことに対応して、その代わりとなる生息・生育地としての位置付けもあったと考えられる。

 しかし、特に人口減少や高齢化が進み、農業形態や生活様式の変化が著しい里地里山では、人間活動が縮小することによる危機が継続・拡大している。さまざまな形での人間による攪乱の度合いによりモザイク状に入り組んでいた生態系が、攪乱を受けなくなることで多様性を失ってきており、里地里山に生息・生育してきた動植物が絶滅危惧種として数多く選定されている。

 また、人工林についても林業の採算性の低下、林業生産活動の停滞から、間伐などの管理が十分に行われないことで、森林の持つ水源涵養、土砂流出防止などの機能や生物の生息・生育環境としての質の低下が懸念される。

 一方、里地里山を中心に、シカ、サル、イノシシなど一部の中・大型哺乳類の個体数や分布域が増加、拡大し、深刻な農林業被害や生態系への影響が発生している。

 これらの問題に対しては、現在の社会経済状況のもとで、対象地域の自然的・社会的特性に応じた、より効果的な保全・管理の仕組みづくりを進めていく必要がある。既に各地で取組は始まっているが、個々の地域における点的な取組にとどまっており、面的・全国的な展開には至っていない。

※ 図4 第2の危機 耕作放棄地面積の増大

図5 中・大型哺乳類の分布の変化

2.3 第3の危機(人間により持ち込まれたものによる危機)
 第3の危機は、人間が近代的な生活を送るようになったことにより持ち込まれたものによる危機である。まず、外来種による生態系の攪乱が挙げられる。ジャワマングース、アライグマ、オオクチバスなど野生生物の本来の移動能力を越えて、人為によって意図的・非意図的に国外や国内の他の地域から導入された外来種が、地域固有の生物相や生態系に対する大きな脅威となっている。
 特に、他の地域と隔てられ、固有種が多く生息・生育する島嶼などでは、外来種が在来の生物相と生態系を大きく変化させるおそれがある。外来種問題については、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)に基づく輸入・飼養等の規制は始まっているが、既に国内に定着した外来種の防除には多大な時間と労力が必要となる。

 外来生物法による規制が難しい、資材や他の生物に付着して意図せずに導入される生物や国内の他地域から保全上重要な地域や島嶼へ導入される生物なども大きな脅威となる。
 こうした脅威に対しても、
①侵入の防止、
②侵入の初期段階での発見と対応、
③定着した外来種の駆除・管理の各段階に応じた対策を進める必要がある。

 また、影響について未知の点の多い化学物質による生態系への影響のおそれも挙げられる。化学物質の開発、普及は20 世紀に入って急速に進み、現在、生態系が多くの化学物質に長期間ばく露されるという状況が生じており、その中には生態系への影響が指摘されているものがある。それ以外の化学物質でも、生態系への影響が、未解明なものが数多く残されており、私たちの気付かないうちに生態系に影響を与えているおそれがある。
 そのため、野生生物の変化やその前兆をとらえる努力を積極的に行うとともに、化学物質による生態系への
影響について適切にリスク評価を行い、リスク管理を推進することが必要である。

※ 図6 第3の危機 北海道におけるアライグマの分布拡大の例
アライグマの捕獲数(北海道)

2.4 地球温暖化による危機
 こうした3つの危機に加えて、地球規模で生じる地球温暖化による影響を大きな課題として挙げる必要がある。

 気候変化の科学的知見について、人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和策に関し、科学的、技術的、社会経済的な見地から包括的な評価を行う気
候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(2007)は、気候シ
ステムに温暖化が起こっていると断定するとともに、人間活動による温室効果
ガスの増加が温暖化の原因とほぼ断定している。同報告書によると、20 世紀後
半の北半球の平均気温は過去1300 年間の内で最も高温であった可能性が高い
とされている。過去100 年間に世界の平均気温が長期的に0.74℃上昇し、最近
50 年間の平均気温の上昇の長期傾向は、過去100 年のほぼ2倍の速さとされて
いる。また、今世紀末の地球の平均気温の上昇は、環境の保全と経済の発展が
地球規模で両立すると仮定した社会においては、約1.8(1.1~2.9)℃だが、化
石燃料に依存しつつ高い経済成長を実現すると仮定した社会では、約4.0(2.4
~6.4)℃にもなると予測されている。

 生物多様性は、気候変動に対して特に脆弱であり、同報告書によると、全球
平均気温の上昇が1.5~2.5℃を超えた場合、これまでに評価対象となった動植
物種の約20~30%は絶滅リスクが高まる可能性が高く、4℃以上の上昇に達し
た場合は、地球規模での重大な(40%以上の種の)絶滅につながると予測され
ている。
 
 環境の変化をそれぞれの生きものが許容できない場合、「その場所で進化する
ことによる適応」、「生息できる場所への移動」のいずれかで対応ができなけれ
ば、「絶滅」することになる。地球温暖化が進行した場合に、わが国の生物や生
態系にどのような影響が生じるかの予測は科学的知見の蓄積が十分ではないが、
島嶼、沿岸、亜高山・高山地帯など環境の変化に対して弱い地域を中心に、わ
が国の生物多様性に深刻な影響が生じることは避けることができないと考えら
れている。

 このため、地球温暖化による生物多様性への影響の把握に努め、その緩和と
影響への適応策を生物多様性の観点からも検討していくことが必要である。

3.各地域の生物多様性
3.1 奥山自然地域
 奥山自然地域は脊梁山脈などの山地で、全体として自然に対する人間の働き
かけが小さく、相対的に自然性の高い地域である。国土の生物多様性の中では、
いわば屋台骨としての役割を果たす地域であり、原生的な自然、クマ、カモシ
カなどの大型哺乳類やイヌワシ、クマタカなど行動圏の広い猛禽類の中核的な
生息域、水源地などが含まれる。現在、国土面積の2割弱を占める、自然林と
自然草原を合わせた自然植生の多くがこの奥山自然地域に分布している。本州
中部や北海道などにおいては山稜部に広く分布する一方、中国地方のように現
在では自然植生が標高の高い山岳部などごく一部にしか残されていない地域で
は、自然の遷移にゆだねられた二次林など相対的に自然性の高い地域がこの奥
山自然地域にあたる。

 この地域は、気候条件に応じて成立する代表的、典型的な自然植生がまとま
って残されている地域であり、各地域の代表的な動植物が将来にわたって存続
していくための核となる地域(コアエリア)として重要である。

 急峻なところでは、地形改変により一度植生が失われると回復が難しいこと
が多く、特に高山・特殊岩地の生態系は厳しい環境条件のため、小規模な人間
活動に対しても脆弱である。

 高山に生息し、地球温暖化の影響を最も受ける動物のひとつと考えられるラ
イチョウは、年平均気温が3℃上昇した場合には、高山帯の縮小に伴い絶滅す
る可能性が高いという予測もある。

 また、鳥獣との軋轢として、南アルプスや日光など15国立公園でシカによ
る稀少な高山植物の食害や森林での樹皮はぎなどの自然生態系への影響が指摘
されている。ツキノワグマによる人身事故も平成19 年度には47 件発生し、約
840 頭が捕殺された。

3.2 里地里山・田園地域
 里地里山・田園地域は、奥山自然地域と都市地域の中間に位置し、自然の質
や人為干渉の程度においても中間的な地域である。この里地里山・田園地域は、
里地里山のほかに、人工林が優占する地域や水田などが広がる田園地域を含む
広大な地域で、全体として国土の8割近くを占める。

 里地里山は、長い歴史の中でさまざまな人間の働きかけを通じて特有の自然
環境が形成されてきた地域で、集落を取り巻く二次林と人工林、農地、ため池、
草原などで構成される地域概念である。現在は里地里山の中核をなす二次林だ
けで国土の約2割、周辺農地などを含めると国土の4割程度と広い範囲を占め
ている。今後人口減少や高齢化が進むことにより、人との関わりが全体として
減少していくと考えられる地域である。

 二次林や水田、水路、ため池などが混在する自然環境は、絶滅危惧種を含む
多様な生物の生息・生育空間となっており、都市近郊では都市住民の身近な自
然とのふれあいの場としての価値が高まってきている。同時に人間の生活・生
産活動の場でもあり、多様な価値や権利関係が錯綜するなど多くの性格を併せ
持つ地域である。

 この地域では、水田耕作に伴う水管理の方法、二次林や二次草原の管理方法
など地域ごとに異なる伝統的な管理方法に適応して、多様な生物相とそれに基
づく豊かな文化が形成されてきた。奥山自然地域とともに、わが国の多様な生
物相を支える重要な役割を果たしてきた地域といえる。

 昭和30 年代以降、生活や農業の近代化に伴い、二次林は手入れや利用がなさ
れず放置されるところが増え、二次草原は大幅に減少するとともに、昭和50 年
代頃からは、耕作放棄地も増加している。こうした変化に伴い、シカ、サル、
イノシシなどの中・大型哺乳類の生息分布の拡大が見られ、人の生活環境や農
林業などへの被害が拡大している状況である。さらにペットとして導入された
ものが野外に定着し、分布が拡大しているアライグマについては、農作物への
被害や在来種の捕食などが報告されている。平成18 年度の野生鳥獣による農作
物被害額は196 億円にのぼる。このため、被害防止に向けてシカやイノシシな
どの有害鳥獣駆除などによる捕獲数が増加しているが、鳥獣による被害は減少
の傾向を見せていない。また、サシバ、メダカ、ギフチョウ、カタクリなどこ
の地域特有の多様な生物については、生息・生育環境の質が低下しつつあり、
環境省の調査によると絶滅危惧種が集中して生息・生育する地域の5割以上が
里地里山に分布している。

3.3 都市地域
 都市地域は人間活動が優先する地域であり、高密度な土地利用、高い環境負
荷の集中によって、多様な生物が生息・生育できる自然空間は極めて少なくな
っている。市街地の拡大に伴い、ヒバリやホタル類など多くの身近な生物の分
布域が、郊外に後退していった。その結果、斜面林、社寺林、屋敷林など都市
内に島状に残存する緑地に孤立して細々と生きる生物、カラス類やムクドリな
ど人為的な環境にも適応することのできた一部の生物など、都市地域で見られ
る生物は非常に限られている。歴史的に都市環境の要素として組み込まれたお
堀や河川、水路に生息する魚類などは少なく、ペットのミドリガメが放され、
在来種でない緑化植物が大量に利用されているなど外来種がはびこる状況も見
られる。居住地周辺において身近な自然とのふれあいを求めるニーズは急速に
高まりつつあり、一方で、生活圏に緑地が少なく、生物多様性に乏しいことを
背景に、自然との付き合い方を知らない子どもたちやそれを教えることのでき
ない大人たちも増えている。

3.4 河川・湿原地域
 水は、地球上の多くの生命にとって欠かせないものである。そして、河川を
はじめとし、湖沼、湿原、湧水地などの水系は生物多様性の重要な基盤である。
水系は森林、農地、都市、沿岸域などをつなぐことで国土の生態系ネットワー
クの重要な軸となる。そのつながりを通じて流域から生み出される土砂や栄養
分、さらには土地利用による汚濁物質を下流へと運ぶとともに、海からサケや
ウナギなどが遡上する。

 水系は、魚類などの水生生物や水鳥をはじめ多様な生物の生息・生育地とし
て重要である。特に湿原は、生物多様性が豊かな地域であり、また人為の影響
を受けやすい脆弱な生態系でもある。

 これまで河川沿いの氾濫原の湿地帯や河畔林は、農地、宅地などとして営々
と開発、利用され、また、河川の改修や流域の土地利用の変化による流量の減
少、水循環の経路の変更や分断、砂礫の供給の減少、攪乱の減退や水質汚濁な
どに伴い、河川生態系は大きな影響を受けてきた。日本に生育する水草のおよ
そ3分の1の種が絶滅危惧種に選定されるなど、水辺環境には多くの絶滅危惧
種が存在する。その一方で、水質などの河川環境が改善する中でアユの遡上が
回復した事例が見られるなどの動きもある。

 また、鳥獣との軋轢として、かつては生息数が大幅に減少していたカワウが、
水質などの改善や食物となる生物の増加、コロニーの保護などにより、現在で
は急速にその分布や生息数が増加し、アユ、オイカワなどを食害するなど漁業
被害が生じるとともに、その糞により樹木が枯れる被害も発生している。
 その他、外来種のオオクチバスは全国的に広範囲に分布し、在来種の捕食に
よる生態系や漁業への影響が指摘されている。



3.5 海洋域・沿岸域
 沖合いから外洋へと広がる国土の約12 倍の広さの排他的経済水域などを持つ
海洋域も、わが国の生物多様性を支える重要な環境である。深海に至るまでさ
まざまな生態系がある一方で、生物相などの科学的データは、漁獲対象種につ
いては過去からのデータが整備されているものの、それ以外は十分ではない状
況にある。

 海洋は地球の表面のほぼ7割を占め、水循環の巨大なストックであると同時
に、その膨大な熱エネルギーにより、地球の気候の形成に大きく関わっている。
また炭素循環を通じて、二酸化炭素の大きな吸収源(シンク)として機能し、
大気の安定化を担っている。日本は周囲を海に囲まれた島国であり、陸上の気
候、ひいては陸上の動植物の分布や生態系も海洋に強く影響されている。

 日本列島周辺は、歴史的に隔離されたことのある日本海や、1万メートルの
深さに達する日本海溝など変化に富んだ海洋構造であり、また北からの寒流、
南からの暖流が存在し、それらによって供給される遠隔地の生物などの影響に
より、わが国の海洋の生物多様性を豊かなものとしている。しかしその一方で、
海洋域においては周辺沿岸国から排出されるごみや有害な化学物質、船舶から
流出する油などが生態系に影響を与えている。

 陸域、海域が接し、それらの相互作用のもとにある沿岸域は、複雑で変化に
富んだ海岸、その前面に位置する干潟、藻場、サンゴ礁などの浅海域から成り
立っており、多様な生物の誕生・成長の場、豊かな水産資源の生産の場、水質
の浄化、自然とのふれあいの場などさまざまな重要な機能を有している。その
中でも、昔から豊かな海の恵みを利用し、採貝、採藻など漁業活動が行われて
きた人のくらしと強いつながりのある地域を「里海」と呼んでおり、歴史的に
見て、私たちの生活や文化も沿岸域に大きく依存して発展してきたといえる。

 海岸には砂浜、断崖、干潟などその形状に応じて特有の動植物が見られ、また
海岸沿いの植生帯や渚の自然環境は、国土の生態系ネットワークの重要な軸と
もなる。一方、沿岸域は、人口や産業の多くが集中したことから、これまで埋
立て、水質汚濁や河川とのつながりの分断・減少の強い圧力を受け、干潟など
の面積の減少や環境の劣化が進んできた場所でもあり、海岸線の人工化も進み、
人と海が切り離されてきた。こうした沿岸域の環境悪化は、干潟に生息するカ
ブトガニやシオマネキが絶滅危惧種となった要因と考えられており、沿岸漁業
の生産量が減少した一因となっている。また、大型の海藻が密生した海中林な
どが著しく衰退する磯焼け、サンゴの白化などの生態系の変化や漂流・漂着ご
みによる影響も見られる。



3.6 島嶼生態系
 わが国は、北海道、本州、四国、九州という主要4島のほかに、3,000 以上も
の大小さまざまな島嶼を有し、小笠原諸島や南西諸島をはじめとして海によっ
て隔離された長い歴史の中で、独特の生物相が見られる島々が存在している。
こうした島嶼では小さな面積の中に微妙なバランスで成り立つ独特の生態系が
形成されており、生息・生育地の破壊や外来種の侵入による影響を受けやすい
脆弱な地域といえる。島嶼地域には、もともと分布が非常に限定された地域固
有の種が多く、また、人為的な影響も受けやすいことから、島嶼地域に生息・
生育する種の多くが絶滅のおそれのある種に選定されている。

 具体的な例として、ハブや農作物を荒らすネズミを駆逐する目的で明治43 年
(1910 年)に沖縄本島に導入され、昭和54 年(1979 年)頃には奄美大島にも
持ち込まれたジャワマングースは、生息地を拡大し、沖縄本島やんばる地域の
ヤンバルクイナや奄美大島のアマミノクロウサギなどの希少な野生生物の捕食
者として大きな脅威となっており、養鶏や農作物への被害も報告されている。

http://www.biodic.go.jp/biodiversity/4thnr/chpt1.pdf  

Posted by ATCグリーンエコプラザ水・土壌研 at 19:26Comments(0)TrackBack(0)生物多様性

2010年02月14日

ほっといたらあかんで大阪湾フォーラム『あしたの海岸線』







第6回ほっといたらあかんやん!大阪湾フォーラム『はばたくあしたの海岸線』を開催しました



 大阪湾見守りネットとは、『魅力と活力のある、美しい大阪湾の再生』を目的に市民団体、行政機関、企業、個人など多様な主体がメンバーとして参加する、大阪湾再生に向けたゆるやかな組織です。
 大阪湾再生に向けた現状や課題そして展望を考えるため「第6回ほっといたらあかんやん!大阪湾フォーラム」を下記の通り実施しました。

開催日時
 2010年3月6日(土)9:00~17:00

開催場所
 南港野鳥園 (午前) 
 おおさかATCグリーンエコプラザ(午後)

第1部 野鳥観察会
(申込制)
 南港野鳥園で野鳥の観察、野鳥園の歴史、自然再生のあり方および人と生き物の関わりについて学ぶ

  http://www.osaka-nankou-bird-sanctuary.com/





2部 子供向け大阪湾自然学習
午後:おおさかATCグリーンエコプラザにて

13:00~16:00
①チリメンモンンター(チりメンジャコに含まれる小動物の発見体験)
 http://k-tomo.web.infoseek.co.jp/chirimon/chirimon_swf.htm








②大阪湾カルタ大会
 http://www.osaka-wan.jp/bay/index.html






②大阪湾パネル展
 市民団体、企業、行政の大阪湾での自然再生などの取り組みをポスターなどで紹介


























③おおさかATCグリーンエコプラザ見学会







  各ブースや展示物の見学






  環境社会報告書を読んでアンケート提出






④バーチャル大阪湾上映
 大阪湾環境保全協議会が作成中のバーチャル大阪湾を先行上映






⑤貝殻など使った工作教室





⑥大阪湾つり大会&工作




第3部 シンポジウム
(14:00~17:00)ATCグリーンエコプラザ内ビオトープラザ





■テーマ「埋立地海岸線の自然再生をめざして」
~生物多様性、市民と行政とのパートナーシップの視点から~





演題:「大阪南港野鳥園のあゆみとこれから」
    ~大阪南港野鳥園の取り組みと今後の方針~
講師:大阪南港野鳥園 石井正春氏

演題:「大阪府の取り組み」 
講師:大阪府港湾局 阪南港湾事務所 國森氏

演題:「国土交通省神戸技調の取り組み」 
講師:近畿地方整備局神戸港湾空港技術調査事務所 藤原氏
  
大阪湾におけるその他の事例紹介

演題:「東京湾の取り組みと市民」~行政と市民との連携の実態~
講師:海辺づくり研究会 木村氏




参加者との意見交換

まとめ

■コーディネーター
鍋島靖信氏(大阪府環境農林水産総合研究所 水産技術センター)
岩井克巳氏(NPO法人 環境教育技術振興会(CAN))

■総合司会:藤原きよみ(環境カウンセラー)
    http://www.s-cats.net/

定員:100名

第4部 交流会
ATCビル6階、ピア6





(会費:2千円)

○ ATCグリーンエコプラザのアクセス ○
 ニュートラム線トレードセンター前駅すぐ
  http://www.ecoplaza.gr.jp/access.html

○ 主  催 ○
大阪湾見守りネット
 大阪湾環境保全協議会
  国土交通省近畿地方整備局神戸港湾空港技術調査事務所

○ 協  力 ○
大阪南港野鳥園、(財)大阪湾ベイエリア開発推進機構、(財)港湾空間高度化環境研究センター、(財)国際エメックスセンター、 (社)瀬戸内海環境保全協会、大阪湾広域臨海環境整備センター(大阪湾フェニックスセンター)、きんき環境館 他

○ 参加料 ○
無料

○ 問い合わせ・申し込み先 ○
大阪湾見守りネット事務局  大阪市立自然史博物館内
 FA X 0 6 -6 6 9 7 -6 2 2 5
  http://www.mus-nh.city.osaka.jp/

会員の方はネットYahoo!グループをご利用下さい
 http://groups.yahoo.co.jp/group/osakawannet/

○ 共  催 ○
おおさかATCグリーンエコプラザ ビジネス交流会 水・土壌汚染研究部会 底質汚染分科会
  http://blogs.yahoo.co.jp/teisitu









  

Posted by ATCグリーンエコプラザ水・土壌研 at 16:17Comments(6)TrackBack(0)大阪湾見守りネット

2010年02月13日

土壌汚染対策法7周年記念セミナー



ATC土壌汚染対策法7周年記念セミナー
 土壌汚染対策法が施行されてから7年を迎え、改正土壌汚染対策法が2010年4月に施行されます。改正土壌汚染対策法が施行後の具体的な運用方法などに不明な部分も多く、汚染土地に対する社会的な考え方がどうなるか予断を許しません。
 そこで、改正土壌汚染に関する最新の情報や今後の運用について、法律作成に係わっている環境省土壌環境課から具体的な運用等についてお聞きし、汚染土地の裁判事例や、土壌汚染問題の支援の状況を学習しさらに、今後の土壌汚染対応について考えたく下記のセミナーを開催させていただきます。特に、土地所有者の土壌汚染問題解決に有効な内容ですので奮ってお申込ください。

開催日時2010年2月19日(金) 14:00~17:20

プログラム
開会挨拶:おおさかATCグリーンエコプラザビジネス交流会 水・土壌汚染研究部会 部会長 姜永根

講演:改正土壌汚染対策法の概要について
講師:環境省水・大気環境局土壌環境課市街地汚染対策係長 下平 剛之 氏
    http://www.env.go.jp/water/dojo.html

演題:土壌汚染問題の解決手続きとしての公害紛争処理制度
講師:公害等調整委員会事務局 審査官 鈴木 義和 氏
 http://www.soumu.go.jp/kouchoi/knowledge/nenji/index.html

演題:土壌汚染対策法改正の実務への影響-不動産取引及び評価等
講師:日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員会委員 
    中央環境審議会土壌農薬部会土壌制度小委員会委員 弁護士 佐藤泉氏
     http://www.nichibenren.or.jp/ja/committee/list/kougai_kankyo.html

演題:土壌汚染対策法に基づく指定支援法人の支援活動
講師:(財)日本環境協会 専務理事代行・常務理事 柏木 順二 氏
     http://www.jeas.or.jp/dojo/

閉会挨拶:おおさかATCグリーンエコプラザビジネス交流会 水・土壌汚染研究部会 幹事長 寺川 隆彦

司会:藤原きよみ
  http://www.s-cats.net/



開催場所
 おおさかATCグリーンエコプラザ
      大阪市住之江区南港北2-1-10 ATCビル ITM棟 11F西側

主   催
 おおさかATCグリーンエコプラザ 実行委員会、ビジネス交流会
 水・土壌汚染対策研究部会

共   催
 きんき環境館(近畿環境パートナーシップオフィス)
  http://www.kankyokan.jp/pc/

定   員
 100名

受講料 
 1,000円 (但し、行政担当者、おおさかATCグリーンエコプラザ出展企業、水・土壌研究部会会員は無料)

案内チラシ兼申し込み書
 詳しい内容や申し込み書があります。
  http://beauty.geocities.jp/atcmdk/atcws_dotaihou7th_20100219.doc

交 流 会
セミナー終了後、会場ビル6 階の「ピア6」で交流会を会費制で開催いたします。(2000 円/人)希望者のみ
  http://blogs.yahoo.co.jp/atcmdk/13867067.html

参考リンク
昨年の、土壌汚染対策法6周年セミナーの概要は↓
  http://blogs.yahoo.co.jp/atcmdk/46062909.html

一昨年の、土壌汚染対策法5周年セミナーの概要は↓
  http://blogs.yahoo.co.jp/atcmdk/40291964.html




講師略歴
 佐藤 泉
  弁護士会登録(第一東京弁護士会)。
  佐藤泉法律事務所を開設。
  日本大学大学院法務研究科講師(環境法)
  日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員会委員
  第一東京弁護士会環境保全委員会委員長
  君津市環境保全委員会委員
  ダイオキシン・環境ホルモン国民会議常任理事
  経済産業省産業構造審議会化学バイオ部会化学物質政策基本問題小委員会委員等。
  2006年 「排出事業者のための廃棄物処理法完全ガイド2007年度版」(日経BP社)
  2004年 「廃棄物処理法をめぐる最近の動向」(東京海上リスクコンサルティング株式会社) 
  2000年 「提言ダイオキシン緊急対策 」(共著)(かもがわ出版)
  1999年 「ダイオキシン類の対策技術」(共著)(シーエムシー発行)
           (過去の経歴も含みます)

おまけ
 エコキャップを集めて世界の子どもたちにワクチンを届けよう!シロクマのエコキャップ エコキャップベアがバレンタインの季節に再登場!ペットボトルキャップを集めて、クマさんの中に入れて下さい。

参考リンク
ATC環境法規制分科会ブログ
  http://blogs.yahoo.co.jp/envlow

土壌汚染と土地取引ブログ
  http://blogs.yahoo.co.jp/totitorihiki

小鳥が丘団地救済協議会
  http://blogs.yahoo.co.jp/kotorigaoka

  

Posted by ATCグリーンエコプラザ水・土壌研 at 15:12Comments(0)TrackBack(0)「イベント情報」はココをクリック!

2010年02月13日

開発許可以前の状況(両備社員)3名の陳述書

2010年1月19日(火)16時00分から岡山地方裁判所353号ラウンドテーブル法廷で住民訴訟第一次(3世帯)第15回口頭弁論準備手続きが行われました。

裁判前日(1月18日)に、被告(両備)から提出された準備書面4 (現在の土壌汚染状況は被告が宅地開発した当時、予見できない) に添付された被告側証人(両備社員)3名の陳述書(乙第24号証・25号証・27号証)、を掲載します。


次に、両備社員の陳述書(乙第25号証)です。


陳述書

平成22年1月18日
住所 岡山市中区桑野×××―×
氏名   ○ ○ ○ ○     印

第1 身上・経歴

1 私は、本件訴訟の被告である両備ホールディングス株式会社の従業員で、現在は資産管理部の仕事をしているものです。

2 私は、本件不動産の開発許可・宅地造成について、被告(当時は両備バス株式会社。以下「会社」と言います)側の担当者をしていましたので(当時の役職は企画開発課係長でした)当時のことについてお話しいたします。

第2 開発許可以前の状況について

1 私は、小鳥が丘団地の北にある小鳥の森団地の販売も担当していました。その関係で、小鳥の森団地にはほぼ毎日と言っていいくらい通っていたのですが、分譲が相当程度進んだ段階で、住民の方から悪臭についての苦情が出るようになりました。
 特に夏場になると、南から風が吹いてきて、しかも暑さからか住民の方は窓を開けているので、ひどい臭いがしました。私も現場にいたのですが、夏は旭油化の工場から北に約200メートル離れた現場販売所にいても臭いがするような状態でした。
 ただ、悪臭についての問題は昭和50年頃からあったのですが、小鳥の森団地は順調に分譲され、昭和56年12月までにはその約84%にあたる219区画が販売済みでした。

2 もちろん旭油化の工場にも近づいてみたのですが、特に工場の周りは臭いがきついというわけでもなく、全体的に同じような臭いがするといった状態で、原因についてはわかりませんでした。

3 もちろんこういった問題については行政も気づいており、昭和51~52年頃には岡山市の公害課だか岡山県の保険所だったかの依頼した環境保全事業団の測定車が来ていろいろなデータを取っていたようです。
 あまり詳しい話は覚えていませんが、メチルメルカプタン、硫化水素、アンモニアが基準値をオーバーしていたという話を誰かから口頭で聞いたように記憶しています。
 もっとも、そうした問題が片付く前に私は小鳥の森団地からは離れて別の現場に向かいましたので、その後の経過についてはよく知りません。結局会社がその土地を買い取り、臭気対策工事をしたと聞きました。


第3 開発許可について
1 実際に第1期の開発許可が下りる半年前くらい(昭和62年4月頃)に、当時の常務だった○○○○氏から、本件土地について命令を受けました。
 そろそろその土地で問題になっていた臭いも落ち着いているだろうから、本件土地を住宅団地に変えようと思っている。そのために必要な開発許可を取れ、ということでした。

2 それで私もあの悪臭がどうなったのか気になり、現場に行ってみました。私が知っていたときとはずいぶん異なり、悪臭はほぼ全くといっていいほどしませんでした。
 その後も様々な用事で現場に行きましたが、せいぜい風の無いどんよりした天気の日にドブ川のような臭いがする程度でした。なお、臭い以外の問題があると言う事を会社から聞かされたことはありません。

3 現地の状況でしたが、土壌を撹拌する作業を行った後というような状態でした。当時の地面の様子や色について言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、ちょうど畑の土が乾いて、白色や灰色っぽくなったような状態だったというのがわかりやすいかと思います。
 今回、旭油化工場があった時の写真(甲第10号証)や、現在土を掘り返した時の写真(甲第31号証)を見せてもらいましたが、この様な黒い土は当時全く見ていません。
 私が当時現地で見たのは真砂土の色(学校のグラウンドのような薄い茶色)とも違う、畑の土が乾いたような白っぽいというか灰色っぽい色の土が全面に広がっていた光景でした。
 現地は更地になっており、建物はもちろんのことドラム缶やコンクリートなどもありませんでした。部分部分を見ればでこぼこしていましたが、全体としてみると平坦地だったように思います。

4 その後、開発許可申請に必要な手続きを行っていきました。手続自体は山崎測量設計というところにお願いしています。行政側は確か第1期の開発の時は岡山県の建築課が担当していたかと思います。
 もちろん岡山県も旭油化のことについては十分知っていたと思いますが、開発許可の際に臭いのことについて何か条件を付けられたり、あるいは注意喚起されたりするようなことは一切無く、問題なく開発許可がおりました。

http://geocities.yahoo.co.jp/gl/kotorigaoka/view/20100213





次回に続く





次回に続く
http://blogs.yahoo.co.jp/kotorigaoka/50176030.html  

Posted by ATCグリーンエコプラザ水・土壌研 at 14:55Comments(0)TrackBack(0)小鳥が丘団地土壌汚染

2010年02月13日

両備の予見可能性に添付された両備社員の陳述書

 2010年1月19日(火)16時00分から岡山地方裁判所353号ラウンドテーブル法廷で住民訴訟第一次(3世帯)第15回口頭弁論準備手続きが行われました。

 裁判前日(1月18日)に、被告(両備)から提出された準備書面4(予見可能性の主張)に添付された被告側証人(両備社員)3名の陳述書(乙第24号証・25号証・27号証)、を掲載します。

両備社員の陳述書(乙第24号証)です。

陳述書

平成22年1月18日
住所   岡山市兼基×××―×
氏名    ○ ○ ○ ○  印

第1 身上・経歴

1 私は、本件訴訟の被告である両備ホールディングス株式会社の従業員で、現在は仲介事業部次長をしているものです。

2 私は、本件不動産を被告(当時は両備バス株式会社。以下「会社」と言います)が即決和解で取得した当時、その件についての会社側の担当をしており(当時は平の従業員でした)、またその後の悪臭対策工をどうするかといった問題についても担当しておりましたので、当時のことについてお話しいたします。

第2 本件土地取得の経緯
1 当時会社は、本件不動産の北側にある分譲地(小鳥の森団地)の分譲を行っていたのですが、分譲地を購入されたお客様から、南の方から悪臭がするので、何とかしてほしいという申し入れが、分譲業者である会社や、行政の方にたびたび寄せられていたそうです。ただ、悪臭についての問題は昭和50年頃からあったのですが、小鳥の森団地は順調に分譲され、昭和56年12月までにはその約84%にあたる219区画が販売済みでした。

2 すぐに原因は、南にある旭油化工業株式会社(以下「旭油化」と言います)の運営する工場からの悪臭が原因であると判明しました。よその会社のことですから会社としても対応に苦慮していたようですが、最終的には旭油化自体に操業を止めてもらうしかないとの結論にいたり、本件不動産自体を買い取ることになりました。
 ですから本件不動産は、会社が宅地造成なり転売なりしてもうけようと買ったわけではなく、あくまでお客様、もっと広く言えば地方の方に奉仕させていただくつもりで買わせていただいたのです。


(第2 本件土地取得の経緯)

3 しかし旭油化との間で買収金額はなかなか合意に至らず、最終的には即決和解という手続を通すことになりました。その際に私が、代理人である杉本弁護士との間に立つ会社側の窓口として任命されたのです。とはいえ、細かい条件や条項案については杉本弁護士に相手方との間で詰めていただいています。

4 こちらが旭油化に対してお願いしたのは、悪臭を除去すると言うことです。当時旭油化の工場が、高い煙突の先から黒い煙を吐き出し、それが悪臭となっていることは公知の事実でした。
 私も会社も、旭油化は油かすを原料として石けん類を作っている会社であり、臭いの元があるとすれば、製造過程か、原料・廃棄物くらいしかないと思っていましたが、具体的にどの過程かは知りませんでした。とにかく操業を止めて、悪臭の元となるものをきちんと廃棄してほしいということを旭油化に申し入れたのです。
 即決和解の条項には、6項に「相手方ら(旭油化)は、申立人(会社)に対して、本件と地上のすべての建物及び地下工作物を収去し、本件土地上のコンクリート、廃白土及び、アスファルト部分を除去し、本件土地上の油脂付着物を除去して本件土地を昭和57年12月31日までに引き渡す。」という条項がありますが、当方は工場内で具体的にどのような作業が行われていたかすら知らなかったわけですから、「廃白土」という言葉自体聞いたことはありませんでした。

 ですからこの条項は、おそらく相手方から「これこれのものを取り除きます」という話があって決まったものだと思います。なお、南古都Ⅱ環境対策検討委員会の調査では、今回発見されたトリクロロエチレンなどの化学物質は、機械洗浄の溶剤として用いられた可能性が高いとのことですが、当時旭油化が、機械洗浄の溶剤に化学物質を使っているとか、ましてや機械洗浄の溶剤を適切に処理することなく垂れ流しているなどと言う話は全く出たことはありませんし、そのような噂さえありませんでしたから、私自身も全く聞いたことはありませんでした。


第3 本件不動産取得後の経緯

1 結局即決和解は成立し、その中で、
①会社は旭油化に、不動産の売買代金と建物等撤去費用として2億3146万円を支払うこととする。

②旭油化は、本件土地上のすべての建物及び地下工作物を収去し、本件土地上のコンクリート、廃白土及び、アスファルト部分を除去し、本件土地上の油脂付着物を除去して本件土地を昭和57年12月31日までに引き渡す、

③会社は旭油化に、①のうち8000万円を昭和57年7月31日までに、残金を②の終了後支払う、ということが決まりました。ちなみに②の「コンクリート」というのは地面を覆っているようなものではなく、「土地上にあるコンクリート製の構造物」を指すと聞いています。

2 それで一部金を支払い、残金を支払う前のタイミングで、一度相手がきちんと即決和解通りの工事をしているか確かめる為に現地に行きました。
 私が現地に行ったのはこの時が初めてです。残金を支払う前のタイミングだったことは確かなのですが、具体的にどの程度まで工事が進んだ段階だったかは覚えていません。土地上に旭油化の工場がまだあったのか、それとも解体されていたのかも、今となっては覚えていません。ただ、甲第10号証の1,2に写っている青い建物については、見た記憶はありません。

3 私が現地に着いた途端、タンパク質が腐ったような腐臭が漂ってきました。私は、この臭いはかなり強く、これをどうにかしないと、どうにもこの土地を利用することはできないと思いました。

4 ただ、先ほど当時の工場の様子を撮影した写真(甲第10号証)や、現在の土地を掘り返した様子を撮影した写真(甲第31号証)を見せていただいたのですが、この様な黒っぽい土とか、黒い水が見えていたかと言われると、そのようなものを見たという記憶はありません。
 もちろん私は現地をくまなく巡ったわけではありませんから、単に気がつかなかっただけという可能性もあります。しかし地面は、概ね普通の色をした土と、白っぽい土に油のような黄色っぽいものが付着したような部分とが入り交じった状態でした。
 黄色っぽい部分も、別に油でべたべたしているような感じではなく、なんとなく色が違うな、という程度のものでした。どの場所に集中していたとか、何かが置かれていた場所が特に黄色くなっていたとかについても記憶がありません。

5 それで私は旭油化に対し、杉本弁護士を通じて、「このままでは到底残金を支払う事は出来ない。きちんとこの臭いをなんとかしてくれなければ、和解のときと話が違っていることになる」ということを伝えてもらいました。
 また杉本弁護士も現地を見た方がいいといわれましたので、後日一緒に現地に行きました。

6 当時は公害であるとか環境基準であるとかについての認識は全く一般的ではなく、私も含め会社は、とにかく苦情が出されていた臭いをなんとかしないといけないと考えていたわけです。
 そして、その臭いの原因というのは、製造過程から出てくる臭いが適切に処理されていない、あるいは製造過程で使用・排出された物質(排煙や廃白土)が悪臭を発しているものと認識していましたから、工場の稼働を停止させ、臭いの発生源になっている物質を除けば、全く問題ないものと考えていたのです。


第4 本件不動産における臭気対策工

1 しかし結局、旭油化の工事は不十分なままに終わりました。
 これについてはまた別の民事訴訟が起こされたのですが、結局会社が別の会社に、土地上にあるコンクリート製の構造物等の除去や臭気を減らすための工事をお願いするということで決着が付きました。
 株式会社東山工務店(以下「東山工務店」と言います)にドラム缶や油分の多い土壌の搬出作業を、株式会社ナップ(以下「ナップ」と言います)に消臭工事を依頼しているはずです(これらの会社も既に倒産していますし、当時の資料も残っていませんので、あくまで記憶です)。

2 東山工務店には、ドラム缶や油分の多い土壌を搬出し、廃棄物として処理してもらいました。この時に会社がお願いしたのは、汚れがひどい土を処分して、分譲地として支障ないようにしてほしいという事で、具体的にどこそこの場所にある土を何㎏運び出してくれ、等の具体的な指示をしたことはありませんし、また全体の表層から何mの土を削り取ってくれ、と土地全体の処理をお願いしたこともありません。
 もちろん取り残しなどはあるでしょうから、本件土地にあった白色や黄色っぽい油が完全に除去されたとは考えていません。しかし残された油分自体が健康被害など生活に支障がある問題を引き起こすとは私も会社も考えていませんでしたし、建物を建築してここを宅地として利用するに当たっても何ら問題はないと思っていました。

3 その後、ナップが、本件土地に粉末状の石灰(生石灰だったか消石灰だったかは覚えていません)をまいて、重機で撹拌していました。その後土地の表面はキレイにならしてくれていたような気がしますが、他所から真砂土を搬入して覆土したのかどうかについては知りません。
 ちなみに、この石灰をまいて消臭するという方法については、おそらくナップから紹介されたものだと思います。少なくとも会社から出た工事方法ではありません。

4 工事後に私も現場を見に行きましたが、臭い自体が完全に消去されたわけではなく、まだ幾分残っていました。それは臭いが気になって困るというようなものではありませんでしたが、住宅地として販売した場合に、特に臭いに敏感な人であれば、それを理由に購入を断られることも可能性としては考慮していました。
 ただ、既に臭いの原因は取り除かれているわけですから、これから臭いは空気中に放散されて薄れていくと考えていました。

5 そこで、念のため臭いが薄れるまでさらに3年程度本件土地はそのままにして置いていましたが、もちろんその間、臭いが酷くなるなどの変化はありませんでした。
 3年程度経って臭いが薄れたので、この土地を住宅地として販売しても問題ないと判断して、開発許可を取ることになったのです。

6 その後、開発許可がおり、本件土地は宅地として造成されたようですが、開発許可手続以降のことについて私は担当していないので分かりません。
 その後、団地を購入された住民の方から臭い等について苦情が出たという話は、平成16年の水道工事がなされるまで聞いたことがありません。

第5 最後に

1 本件土地は決して安い買い物ではありませんでしたが、悪臭を垂れ流していた旭油化の操業を停止させて悪臭を解消したことで周囲の住民からも感謝され、企業として地域のために奉仕できたものとして自負しています。

2 そしてその後20年以上、なんの問題もなく生活できていたわけです。悪臭がしたとも、健康被害があったとも、土壌汚染が発見されたとも聞いたことはありません。
 これらの問題を住民の方が言い出したのは、すべて平成16年以降のことです。

3 私も会社も、当時できる最善のことをしています。今になって「土の中に大量に油が捨てられていた」とか、「トリクロロエチレンなどの化学物質で汚染されていた」などの問題が出てきているようですが、上で述べたとおり、臭気対策工事を行った当時には、そのようなことを伺わせる事情は何もありませんでした。
 ですから本件訴訟には納得がいかない、というのが正直な気持ちです。

以上
http://blogs.yahoo.co.jp/kotorigaoka/50171373.html

上記内容の適切性を保障するのもではありません。各自の判断願います。  

Posted by ATCグリーンエコプラザ水・土壌研 at 14:41Comments(0)TrackBack(0)小鳥が丘団地土壌汚染

2010年02月06日

小鳥が丘の被告の故意過失、当時の認識

平成19年(ワ)第1352号 損害賠償請求事件

原告 藤原 康 外2名

被告 両備ホールディングス株式会社

次回期日  平成22年1月19日

準備書面4

平成22年1月18日

岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中

                       被告訴訟代理人

         弁護士 菊池捷男 弁護士 首藤和司 弁護士 財津唯行 弁護士 安達祐一

= 第1 被告の故意過失について =
1 これまで原告らが行っている、不法行為に基づく損害賠償請求における要件事実の一つである「故意・過失」についての主張は、概要以下のとおりである。

(1)被告は、旭油化が汚染し続けた土壌が有害物質で汚染されている事を十分に認識して(もしくは認識し得た状態で)、旭油化の敷地を買収した(訴状第2の5一、平成19年12月10日付原告ら準備書面第2の1)。

(2)それにもかかわらず、被告は抜本的な無害化工事を実施しなければ到底造成地としてはならない本件土地につき、ごく一部の土壌を搬出除去し、表層土に石灰を混入させて中和凝固させただけの簡便かつ不十分な対策をなし、表層土に盛り土をしただけで、危険物質や土中のドラム缶等を除去することなく土地を宅地として造成し、分譲した(訴状第2の5二、第2の7、平成19年12月10日付原告ら準備書面第2の1、第2の4、平成20年11月17日付原告ら準備書面第1の5)。

(3)被告は、汚染の事実が表面化しても危険はないと断言して、原告らに対して何らの対策をとろうとしなかった(訴状第2の5三、第2の7)。

2 このうち
(3)については、被告に対策義務(少なくとも損害賠償義務)があることが前提の主張であるし、
(1)については単独で故意過失を構成するものではないから(汚染があったとしても、無害化して売却すればよいだけのことである)、結局のところ原告らの主張する故意・過失についての主張は、
(2)すなわち、被告が当時行った対策工事が、当時の土壌の状態について被告が認識しあるいは認識し得た事実に基づき、技術的・科学的水準に照らして、必要十分なものだったか、それとも原告らが主張するように、簡便かつ不十分なものだったかという点に収斂される。

= 第2 被告における当時の認識について =
=== 1 旭油化における悪臭の原因についての認識 ===
(1)そもそも、原告らは臭気の原因が油等によって汚染された土壌にある旨主張しているようであるが、当時そのような理解がされていなかったことは、以下のような事情から明らかである。

ア 旭油化は、ソーダ油さいや廃白土(食用油などを作る際に出る、植物性油と白土の混合物で、産業廃棄物)などを分解、生成して塗料の原料や燃料を生産、販売する会社として認識されていたこと(甲第1号証の1、2)

イ 一般的に、悪臭の原因は、工場内に放置された汚泥や廃白土の分解、生成の過程から発生する悪臭が、工場施設のほとんどに屋根がないため周辺に拡散されたことによると認識されており、土中に不法に投棄された油、産業廃棄物ないしはそれにより汚染された土壌が存在するとは考えられていなかったこと(甲第1号証の1、2)。
 岡山県においても、悪臭の原因は「分解釜を主体とする製造施設の老朽化及び脱臭設備の不備、汚水処理施設の処理能力及び管理不足、製造廃液及び脱水汚泥の場内放置、原料、製品ドラムの貯蔵方法、施設の不備並びに清掃の不徹底による」ものと認識していたこと(乙第26号証)

ウ 本件土地から検出された化学物質は、機械洗浄の溶剤が原因と思われるが(乙第9号証)、機械洗浄の溶剤を適切に処理することなく不法に廃棄していたとの話は当時存在しなかったこと(甲第1号証の1、2、甲第1号証などでも悪臭と水質汚濁に言及されているだけである)

(2)よって、被告が本件土地を取得した昭和57年頃当時において、
①旭油化に関するものとして一般的に認識されていた問題点は、悪臭と、せいぜい水質汚濁程度であり、油ないし化学物質による土壌汚染については全く認識されていなかったこと、
②またその悪臭の原因は、工場内の原料や製造過程から不可避的に発する悪臭を、旭油化が適切に処理することなく大気中に放出したことが原因と考えられており、旭油化が廃棄物を不法に土中に投棄しているとか、油が地面にしみこむままに放置しているとかいった事実は存在しなかったと思われるし、仮に存在していたとしても、旭油化と何の関係もない被告が認識することは不可能であったこと、は明らかである。

=== 2 必要な対策工事についての認識 ===
(1)そのため被告も、悪臭の原因は石鹸等を作成するための原料、作製工程、製造後に排出される廃棄物(煤煙等)であると考えて、旭油化の操業を停止させ、建物を撤去し、悪臭の原因となっている原料・廃棄物を破棄すれば、悪臭は除去でき、本件土地に関する問題は解決するものと考えた(乙第24号証第2の2、4、第3の6)。
 もっとも、被告には、具体的にどの物質が悪臭を放っているかについて断定することは出来なかったから、本件土地上のコンクリート等構造物をはじめ、廃白土や油脂付着物などのすべてを旭油化に除去させるとの内容で即決和解を行った(甲第3号証)のである。

(2)原告は、現在本件土地に存在する黒い汚泥(甲第15号証)が、旭油化撤退当時から存在したかのような主張をしているが、即決和解直後の本件土地は、かなり強い悪臭はあったものの、地面はおおむね普通の色をした土壌と白っぽい土に、油のような何となく色が違う程度の黄色っぽいものが付着したような部分とが入り交じったような状態であり(乙第24号証第3の3、4)、現在見られるような黒い汚泥は存在していなかった。
 また、臭いも、現在問題になっているような油臭ではなく、タンパク質の腐ったような臭いであった。

(3)そのため、被告(ないし旭油化)は、本件土地を、商業的に利用できる土地へと生まれ変わらせるため、以下のような対策を行った。

ア 旭油化は、不十分ながらも、建築物、製造施設、原料ドラム缶、場内汚泥(廃白土のことと思われる)の搬出を行った。この点は昭和58年1月10日、岡山県により、廃棄物の搬出が確認され、撤去作業の完了が確認されたこと(乙第26号証)から明らかである。

イ また、旭油化が行った搬出作業によっても悪臭が十分除去できたとは思えなかったため、被告は昭和59年2月頃、株式会社東山工務店に対し、油分の多い土壌の搬出作業を3673万2000円で依頼した(乙第24号証第4の1)。
 この際被告は、東山工務店に対し、「汚れがひどい部分を処分して、分譲地として支障がないようにして欲しい」と依頼し、東山工務店はそれに従って、ドラム缶や油分が多い土壌を搬出し、廃棄した。

ウ また被告は同時期に、株式会社ナップに対して消臭工事を依頼し、ナップは本件土地に粉末状の石灰を撒いて重機で撹拌し、土地の表面をならすという消臭工事を行った。

(4)被告は念のため、造成を行うまで3年程度その土地をそのままにしておいたが、その間ににおいがひどくなるようなことはなかった(乙第24号証第4の5、6)。
 また悪臭の原因が取り除かれた以上、その後悪臭は空気中に拡散していき、将来的には全く問題が無くなると予想される状態になった。

(5)従って、当時の対策工においては、悪臭を発生させる直接に原因だった工場等の建築物、及び廃白土や油脂付着物などの廃棄物が完全に除去され、工場や廃棄物からしみ出した油がしみこんでいる可能性のある土壌もその大部分が除去され、わずかに土壌に残っているかもしれない油から生じる不快感(悪臭)についても石灰を撒くことで取り除かれ、十分な対策がなされた。
 また当時の科学的知見で、本件で検出されているようなトリクロロエチレンやシス―1、2―ジクロロエチレン、テトラクロロエチレン(以下「トリクロロエチレン等」という)についての危険性を認識することは不可能であった。
 なぜなら、これらの物質が土壌を汚染することによる危険性がはっきり認識されるようになったのは、平成15年に施工された土壌汚染対策法及び同施行令において、当該物質が特定有害物質に指定されてからのことだからである(それまで土壌汚染については、農用地におけるカドミウム、銅、ヒ素についての汚染について定めた「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」があるだけであった)。

 またトリクロロエチレン等などという旭油化の行っている事業とは無関係な物質が土中に存在しているなどと言うことを予想することはできなかったのである。したがって、当時の技術的・科学的水準に照らせば、当該対策工は、本件土地にまつわる問題を解決する上で、必要十分なものだったのである。


=== 3 その後分譲当時における土地の汚染状況についての認識 ===
(1)そして、この対策工が十分なものだったことは、以下の事実経過からも明らかである。

ア 昭和62年4月頃、すなわち被告が本件土地の宅地造成のため、開発許可申請の準備に取りかかった頃、本件土地における悪臭は、「せいぜい風のないどんよりした天気の日にドブ川のような臭いがする程度」(乙第25号証第3の2)「それほど臭いが強いというわけではなく、何となく臭いがする、という程度」(乙第27号証第2の2)になっていた。

イ また、当時の土壌の表面は、「畑の土が乾いたような白っぽいというか灰色っぽい色の土」(乙第25号証第3の3)「田んぼの土が乾いたような、グレー色」(乙第27号証第2の1)で、黒い土壌は見受けられなかった。

ウ 岡山県ないし岡山市は、小鳥が丘団地につき、昭和62年10月1日、昭和62年2月23日、昭和63年11月26日、平成2年3月20日に、順次開発許可を行った。

エ 被告は、上記開発許可に基づき、東山工務店に対し、本件土地における造成工事を、純粋な通常の造成工事として依頼した(乙第25号証第4の1)。

オ 造成工事の過程で、
(ア)宅地として既存の道路と高度を合わせるために、川沿いにある土壌を団地の南側に移動する工事を行った。その際にショベルカーで川沿いを数メートル掘り返す作業を行った。

(イ)高台にある住宅のため、将来掘りぬきの駐車場として使用するための空間として、地表から数メートル下の土地を大きく掘り抜いたが、周囲の色の違う色の土が出てきたり、黒い汚泥や汚水、悪臭が発生したりすることはなかった(乙第25号証第4の3)。

カ 造成工事完了後、岡山県(ないし岡山市)の職員が検査済証を発行するため現地を見聞したが、悪臭等について何らの指導を受けることはなく、検査済証は問題なく発行された(乙第25号証第5の1)。

キ 本件土地における住宅建築の際、黒っぽい土が出てくることはあったが、それは現在見られるような、真っ黒で、水分を多量に含み、非常に広範囲にわたって分布するようなものではなく、むしろ濃い灰色で、水分量はさほど多くなく、土中の一部にのみ存在する塊状で、団地内のごく一部(把握されていたのは2か所のみ)にだけ存在しているに過ぎず、上述した「わずかに土壌に残っているかもしれない油」の域を超えないものであった(乙第27号証第3の4,5)。

ク 宅地造成後、懸念されていた悪臭については、「特に雨上がりの日、あるいは夏場に・・・側溝の周辺など団地の数か所でかすかに臭う、という程度」(乙第27号証第2の4)にまで低減され、ほぼ解消した。

(2)以上の通りであるから、造成工事が完了し、分譲が開始された時点においても、前記対策工が不完全であったことをうかがわせるような事情はなく、むしろ異臭がほぼ完全に消滅していたこと(この点については原告らも認めるところである)、土壌の色が表層部から地下数メートル部分までのほとんど全てが通常のものになっており、油分を含んでいる部分は、そのごく一部で発見されるにとどまるものになっていたこと、行政側も問題なく開発許可、検査済証を発行していたことなどを考えれば、対策工が完璧に行われていたと評価できる状態になっていたのである。

(3)これは何も、被告が勝手に「対策工が十分に行われた」と思いこんだという意味ではない。
 なぜなら、本件土地上に建物を建築するに当たっては当然基礎工事が行われ、地面を数十cm程度掘り返しているし、また本件団地内の住宅は全て個別浄化槽を採用しており、浄化槽(5人槽)を埋設するために、縦約2.2メートル、横約1.1メートル、深さ約1.7メートル程度の縦穴を掘っているから(乙第22、23号証。いずれも一般的な浄化槽についてのものである)、もし黒い汚泥や汚水が出たり、悪臭が新たに発生したとすれば、必ずその時点で問題になっているはずである。

 しかし、わずか団地の2か所程度から、黒っぽい土が出てきたのみで、住民からも、特に問題視されることはない程度に過ぎなかった。
 原告らは、建物建築を行った業者(被告を含む)が、このほかにも汚泥や悪臭が発見されたにもかかわらず、それを隠蔽した旨主張するかもしれないが、当時わずか数年の間に小鳥が丘団地に30余件の住宅が建築されているのであることを考えてみてもらいたい。
 自宅は一般市民にとって一生の買い物であるから、建物建築前、建物建築中を問わず注文主やその家族、購入を考えている人など様々な人が幾度も現地に足を運んでおり、その延べ数千人にも及ぶほどの人間の目を全て欺いて、汚泥や悪臭を隠蔽することは不可能である。
 原告ら自身も、購入当時には悪臭や汚泥には気づかなかった旨述べていることも、本件土地に客観的な異常があるようには見えなかったことを裏付けている。
 また発見された油分についても、本書面第2の1(1)で述べたような旭油化の操業態様を前提とすれば、ガソリンや重油のようなものではなく、むしろ植物性の油にすぎないから、人体に対し健康上の被害があるわけでもなく、また土中にあれば臭いについても問題にはならない者であると当時は認識されていた。

 土中に土以外の物質が仮に存在しているとしても、それが即土地の瑕疵にあたると言えないのは当然であり、それを全て完全に除去しなければ販売が許されないわけではない。
 宅地であれば、その土地上に建物を建築するについて支障となる質、量の異物が地中に存在するために、その土地の外見から通常予測されうる地盤の整備、改良の程度を超える特別の異物除去工事等を必要とする場合に瑕疵にあたるという判例(東京地判平成14年9月27日)に照らせば、本件のように建物を建築する上で全く支障がなく(現に20年を経過した現在に至るまで宅地として使用されている)、そのまま土中に埋め戻しても何ら悪影響がないと当時の科学的知見では思われていた油をそのままにした上で分譲を行ったとしても、対策工が不十分だったとされるいわれはないのである。

(4)なお、これらの事実を前提とすれば、当然現在本件土地に存在している黒い汚泥がどこから来たのか(土中深く、容易には認識できない深さに存在していた油が毛細管現象により地表付近までしみ出してきたのか、土中にあった何らかの物質が化学反応を起こして汚泥に変化したのか、当時存在していた黒い土壌が何らかの理由で拡散していったのか(それにしても油の総量が増えたとは考えられないから、やはりどこから来たのかは問題となる)、それとも別の機序によるのか)も問題となりうるが、この点については現在調査中であるので、その結果を待って改めて反論することとする。
 ただいずれにせよ、当時の科学的知見でこれを予測することは不可能だったのである。そもそも科学が20年以上発達した現在においても、この黒い土壌がどこから来たのかを未だに解析できていないことを考えれば、20年以上前の科学でそれを予想しろというのが不可能であることは自明である。

4 以上の通りであるから、対策工事を行った時点、あるいは本件土地を分譲した時点において、本件土地が油やテトラクロロエチレン等の化学物質により汚染されていることを被告が認識していた事実はないし、また認識することは不可能であった。そしてそのような事実を前提としてみるに、対策工事は当時の科学的・技術的水準から見て必要十分なものであった。

5 従って、被告には本件不法行為についての故意または過失はないのである。


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http://geocities.yahoo.co.jp/gl/kotorigaoka/view/20100203

http://blogs.yahoo.co.jp/kotorigaoka/50146935.html

等を参考にしましたが、不正確や不適性な内容が含まれている場合がありますので、各自の責任に閲覧してください。





  

Posted by ATCグリーンエコプラザ水・土壌研 at 12:46Comments(2)TrackBack(0)小鳥が丘団地土壌汚染